TAMABI NEWS 84号(技術が開放する個性)|多摩美術大学
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NHK紅白歌合戦でも話題となった 映像と音楽を融合させる表現と技術掛け算の要素が増えれば、 いろいろな展開が見えてくる『ゼロから作らなくてもいい。何かと何かを掛け合わせれば、自然と個性になってゆく』。世界を舞台に活躍するテクノロジー・アーティストならではの考え方に迫りました。10左=『Fragment Shadow』に興奮する来場者たち。インタラクティブな作品だからこそ、来場者のダイレクトなリアクションも楽しめる。右=ラボスペース「backspacetokyo」内の仕事場。単なる作業場ではなくコミュニケーションを取るためのレイアウトや機材の配置がなされている。現在、エンジニアやプログラマーなどバックグラウンドの異なる8人のフリーランスが共同で使用。その中には多摩美のOBも。無機質とも思えるデジタル表現だが、その制作は、人と人とのつながりを重視するものだ。 『Fragment Shadow』。 アメリカ・テキサス州で開催される、音楽祭・映画祭・インタラクティブフェスティバルなどを組み合わせた大規模イベント「サウス・バイ・サウスウエスト 2019」のソニーブース用に制作。 活動内容が多彩すぎて、比嘉さんの仕事を一言で説明するのは難しいが、2014年のNHK紅白歌合戦に出演したPerfumeの『Magic of Love』のコンピュータ・ビジョンとメインシステムを制作したと言えば、分かりやすいだろうか。プログラミング技術を駆使して、映像と音楽を融合させるクリエイティブ・コーディング。比嘉さんは自身の作品をジャンルとしては中途半端なポジションにいると話す。 「僕がやっているような分野は、似ているところでいうとゲーム、研究開発、ファインアート、それぞれの間にいるように感じています。リアルタイムで動かすものなので、ゲーム制作のようにプログラムを駆使しなければいけないし、先進的なテクノロジーも取り入れなければいけない。かつ見た目も良くなければいけない。分野としては見るべき範囲が広いので難しいと言えば難しいですね(笑)」 アーティストとしての自分を支えているのは、得意分野の掛け算だと比嘉さんはいう。 「個人的に思っているのは、得意な分野が1つだけでは足りないってことですね。すごく得意なものが1つあって、まあまあ得意なものが2つぐらいある。そうすると、できることが掛け算で増えていくので、『あれとこれを結びつければいいんだ』とか。さらに3つ掛け合わせると、世界で一人だけの存在になれることもある。そうすれば群れの中にいても自然と目立ち、勝手に僕を見つけてくれる人も出てくる。それが個性ということになると思うんです。好きなものがあるなら追いかけたほうがいい。途中でやめるのが一番もったいない。掛け算の要素が増えるほど、いろいろな展開があると思うんです」 比嘉さんが、「掛け算」の考えに行き着いたのは在学中のこと。ライバルともいえる同級生たちの存在によるものだった。 「多摩美に入って、久保田晃弘先生の授業でサウンド・アートに出合い、すっかりハマりましたね。自分のイメージにぴったり合ったというか。そこで2年生からはワークショップにも参加していたんですが、同じ学年にめちゃくちゃ面白い人たちがたくさんいたんです。それに対して2、3年生の時の僕は結構しょうもない感じだったと思います(笑)。これは音だけやっていたら絶対に負ける。だったら映像を加えようと4年生から作品のスタイルを変えたんです。技術的には割とよくできるほうだったので、どうせなら完全に技術に振り切って、みんなができないような難しいことを、あえて選んでやっていましたね。自分でパソコンを改造したり、ソフトウェアを作ったり。そこしか道がないと思ったんです」 結果、自分の得意分野を生かし、さらに磨きをかけながら他の分野を掛け算することで、比嘉さんはテクノロジー・アーティストとしての道を切り開いたのだ。比嘉 了08年大学院デザイン修了Higa Satoru プログラマー/ビジュアルアーティスト。リアルタイム3Dグラフィックス、コンピュータビジョンなどの高度なプログラミング技術を用いて、さまざまなプロジェクトに携わる。インスタレーション、舞台演出、VJ、ライブパフォーマンスなどの活動も。ラボスペース「backspacetokyo」取締役/CTO。クリエイティブ・コーディング卓越したプログラミング技術を駆使した、独自の映像表現が世界を魅了領域を掛け算すると個性になる

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