学長メッセージ
変革の時代の美術教育
未曾有の東日本大震災と東電の原発事故が重なり、我が国は大きな危機に直面しています。あまりにも痛ましい現実を前に、美術はその無力さを突きつけられた感があります。しかし、見方を変えると、日本美術界は変革の機会を与えられた。そう捉えることができます。
現代の彫刻や絵画は、美術館や画廊の宝物に甘んじていなかったか。デザインは、産業のための奉仕に偏っていなかったか。そんな反省に立ち、美術は日常や人々の暮らしにもう一度、真摯に向き合わなければなりません。この困難な事態を本質的に捉え、表現の域にまで高めることが、未来を担うアーティストに求められるのだと思います。
多摩美術大学は1935年の建学以来、一貫して「自由と意力」という理念のもとに歩んでまいりました。伝統的な絵画、彫刻、工芸をはじめ、デザイン、映像、演劇、パフォーマンス、メディア芸術、マルチメディアといった広範囲な表現分野に対し、現代の知性や技術を駆使してデザインとアートの本質に迫り、時代に即したアーティストを育成しています。これからの美術教育は、若い才能と新しい価値観を共有することが必要であり、すなわち変革がひとつのキーワードとなるでしょう。
物質的な豊かさから、美術本来が持つ精神的な豊かさの追求へ。知性、理性、感性に加えて、身体的運動から生み出される精神性の獲得へ。これらを具現化する実験の場として、大学の教育的課題の一部はおのずと社会に直接貢献するものとなるはずです。
加えて、近年の教育的活動は学外とも連携する時代を迎えています。産学官の共同研究や国内外の大学との交換プログラムや研究など、活動の広がりとスピードには眼を見張るものがあります。たとえば、バナナの可能性に着目した「バナナ・テキスタイル・プロジェクト」は、アフリカ数ヵ国の文化と産業に強い影響を与え、海外との研究交流として実績を重ねています。大学院においては、東京大学や京都大学など他大学の研究者との共同研究や、新しいデザインのプラットフォームを開発する「戦略的創造研究推進事業プロジェクト」などが、実践的な成果を生み出しています。
一方、地域社会とのつながりを大切にし、多摩美術大学美術館や学内に点在するギャラリー、その他の施設を駆使して、展覧会、講演会、公開講座、ワークショップなども開催。さらに、学生の皆さんが安心して学業に取り組めるよう環境づくりとして、災害や緊急時に備えた体制を確立するとともに、校舎や設備の安全対策にも万全を期しています。今後も多摩美術大学は教職員と学生が一体となって、21世紀の理想の美術総合大学を目指します。
