多摩美術大学演劇舞踊デザイン学科
第一期生演劇専攻卒業公演 「大工」
特別座談会
(上段左から) 鈴木 正也、 安部 萌、 須澤 里佳子、 小山 薫子 (下段左から) 緒方 壮哉、 米川俊亮、 杉原 邦生、 湯川拓哉
杉原邦生(KUNIO)
×
学生7人(本学科4年)
2014年に多摩美術大学に新設された演劇舞踊デザイン学科。本学科専任講師である劇団ままごと主宰の柴幸男が、昨年度の上演実習のために書き下ろした『大工』を、前回のキャストに新たなキャストを加え、卒業公演として再演。本学科講師である柴幸男と幾度もタッグを組んできた杉原邦生と演劇舞踊デザイン学科の学生が語る夢の座談会。鍋を囲みながら、大学のこと、演劇のこと、そして自身のことについて語ってもらった。
『邦生さん、学生と鍋でもどうでしょう』
緒方: 今日は、鍋を囲みながらのラフな座談会ということで、(杉原)邦生さんご希望のチゲ鍋をご用意しました。
杉原: すいません、希望通りにしていただいて・・・。
一同: いただきまーす!
米川: それでは早速、杉原さんに多摩美の印象を聞きたいのですが。
杉原: 多摩美の学生(卒業生)の作品は、今年何本か観ていて、まず米川くん主宰のヨネスクを観たんだよね。
米川: その節はありがとうございました!
杉原: 次に天ぷら銀河。で、シラカンを観て、次に妖精大戦争。
緒方: 色々混ざってます(笑)。
安部: 妖精大図鑑です・・・(笑)。
杉原: あ、ごめん(笑)。この半年で観た四本の作品もそうだし、壮哉と(鈴木)正也は、俺が今年の5月に演出した木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』のオーディションに通って出演してもらったし、単純に勢いを感じてるなあ。自分が東京で活動し始めた頃(2009年頃)は、桜美林大学の勢いがすごかった。藤田貴大くん、山本卓卓くん、北尾亘くんとかさ、面白いアーティストがたくさん出てきてたんだよね。で、今は、多摩美が元気いいなって、そう思ってます。
舞台芸術に限ったことではないのかもしれないけど、舞台の大学ってあたらしく出来た最初の四年間が一番元気。きっと、まだルールがないから学生も教員も自由にできるんだよね。決まりがない分、イラつくこともあると思うけど、ルールを作っていく段階だから、良い意味でも悪い意味でもエネルギーが渦巻いていて、そこから面白い人材が出てくるんだと思う。
安部: ・・・確かにそうですね。
杉原: 特に、天ぷら銀河と妖精大図鑑を見た時に、懐かしい匂いがして。それは全然嫌な意味じゃなくて、不条理で、ハチャメチャでエネルギーがあって、こういうタイプの演劇がこの世代から出てくるんだぁって、新鮮な驚きがあった。
米川: 彼らは卒業生で、夜間学科の先輩なんですけど、天ぷら銀河主宰の伊東翼と僕は高校が同じで、話を聞くと80年代、90年代の雰囲気が好きで、野田さんや大人計画なんかに影響を受けてる。それで、彼は基本的にテレビ大好き人間で、お笑いとかテレビ的芸能をどうにかして持ち込みたいんだなと思います。
安部: 両親がバブル世代ぐらいっていうのもあるのかな。あと、私らは大体、1995年生まれなので、その時代に生まれているのも何かあるのかもと・・・。
杉原: ああ、なるほどね・・・。でも、多摩美は本当に勢いがあると思う。きっと面白い人が出てくるんだろうなって、勝手に予想してます。
安部: 同キャンパスに統合デザイン学科があるのも大きいかも。
緒方: 僕らが在籍している演劇舞踊デザイン学科と統合デザイン学科が同時に新設されたんですよ。お互い1期生というのもあって、関わることも多くて、パフォーマンスを一緒にやったりして。
さっき仰ってたみたいにまだルールがなかったので、あんまり縛られず、自由にやってた気がします。
杉原: みんなももう卒業するから今さら言ってもあれだけど、ホント学生のうちに思いっきり色々やっておいたほうがいいと思うよ。俺の大学時代とかもうめちゃくちゃ(笑)。俺が行っていた造形大(京都造形芸術大学)は当時、日本で初めて劇場が併設されている大学だったのね。俺らは2期生で、入学した年に劇場(京都芸術劇場)がオープンして、春秋座っていう800人規模の歌舞伎劇場とスタジオ21っていう150人規模くらいの小劇場があったんだけど、俺は人生初演出が春秋座だった(笑)。そんなこと普通はありえない。ルールが全くないから自分達で企画書を書いて、先生たちにも協力してもらって、学生にはまだ早いと言う劇場の人たちを説得して、なんとかやらせてもらった。
卒業制作もめちゃくちゃだった。自分たちで企画書を提出して、コンペで選出された作品が上演できるっていう形式だったんだけど、俺たちはスタジオ21と春秋座と、春秋座の舞台裏倉庫スペースの三つの場所を使って3本立て、上演時間三時間のオリジナル作品を作った。
学生: えぇえ・・・!
杉原: お客さんは会場を移動しながら、スタジオ21で1本目、舞台裏倉庫で2本目を観て、3本目は春秋座の舞台上舞台で観る。ホント仕込みとか大変すぎて 死ぬかと思った。でも、そういうのができるのって学生のうちだし、学校が新しいうちだから。
あとやっぱり、(多摩美の学生は)みんなさ、学生のうちから学外の現場でちゃんと積極的にやってるじゃん。それがすごくいいなってって思うし、勢いをつくってると思う。ちなみにコースが分かれてると、(演劇舞踊コースと劇場美術デザインコースがある)ぜんぜん授業は違うの?
須澤: 違います。
杉原: じゃあほとんど学内で会わない?
須澤: 会わないですね。
杉原: じゃ、あんまり仲良くないの?
小山: 仲はいいですね。入学当初から、自主公演の舞台美術をやってもらったりして。
杉原: それはいいね。あ、卒制がさ、先生の作品をやるっていうのは正直どう思ってるの?
安部: 多少もめたし、ざわつきはしましたね。
杉原: そりゃそうだよね。当然、自分たちの作品をやりたいって気持ちもあるだろうし。でも、俺はどちらも良さと悪さがあると思ってて、教員作品を上演すると、俳優もスタッフも見てもらえる観客の幅は俄然広がる。それに、今回の『大工』を上演する芸劇(東京芸術劇場)なんて、東京のど真ん中にある劇場じゃん。俺らの卒制は、自分たちのやりたいことができたし、劇場の設備は申し分ない環境だったけど、京都駅からバスで50分かけなきゃ行けないようなところでさ、観に来るっていっても物理的ハードルが高いわけ。それと比べたら雲泥の差だよね。やっぱり舞台って観てもらえなければやっていないも同然だから、観てもらえる可能性が広いっていうのはすごく大きいと思う。それに、作品の柱となるクリエイティブ面を教員に任せられる分、こういう(座談会などの)制作的な企画も考えられたりするから、そういう良さがあるよね。
安部: 夜間学科があった頃は、邦生さん達みたいに、それこそ自分たちで企画書いたりして卒業制作を行ってたみたいなんですけど、多分、わたしたちの学科は、俳優とスタッフにコースが分かれているので、自主制作というよりは、俳優とスタッフで共同制作をするっていう風に変わったんだと思いますね。
でも、わたしは、美術大学に劇場美術コースがあるってことに魅力を感じていて、芸術の分野を学びながら舞台のことを深く知れるし、スタッフさんと共に勉強したり、つながりができてくる。それにみんな凄いんですよ、稽古場に美術を自分たちでガンガン建て込んで。
杉原: プランニングとか図面の書き方とかも習うんですか?
須澤: 習います。
杉原: いいなあ。『大工』はどうやってつくってるの? 柴君のイメージが最初にあった? それとも学生からの発信?
須澤: 初演に関しては、台本の冒頭部分にざっくりとした舞台の説明が書いてあったので・・・。
学生: (笑)。
杉原: なんでみんな笑ってんの?
安部: 懐かしいなと思って(笑)。
湯川: 確かにざっくりだった(笑)。
須澤: 「ただ高さのある舞台があるのみ」っていうト書き、そこから始めました。初演は、結末を知らないまま美術を考えなきゃいけなかったんですけど、今回の再演に関しては、結末を知った上で、初めて美術を考えることができたので、初演とはまた違う思考をすることが出来ました。特に、今回はコンペだったので、前回のようにプランニングの段階から先生と直接、話をしたりはせずに、いきなり学生のみで作品へのプランをプレゼンして、選出していただいたという感じです。
杉原: いいね。プラン候補は何個出るの?
須澤: 2つです。今年は、たまたま美術デザインの志望者が少なかったので。
杉原: いいね、デザインコンペがあるのは面白いね。
緒方: なので、ぜひ美術にもご注目を。
杉原: 注目するー。俺も舞台美術家でもあるのでもう少し美術の話をすると、俺自身はあんまり舞台美術家っていう意識が無くて、舞台にこういうものを立て込もうとか、こういう造形物を置こうとか、いわゆる建築的な考えも彫刻的な考えもなくて。どうスペースを作るか、劇場空間含めて俳優が動くスペースをデザインするか、なんて言うかスペースプランナーみたいな感覚。基本何も無いところから思考が始まるんだけど、スーザン(須澤)はどういうタイプですか? 今回のプランニングについて。
須澤: 初演の時もそうだったんですけど、美術が役者と一緒に動けるように、美術も役者の一体になれるようにっていうのを常に考えてデザインしています。ただそこにあるだけじゃ意味が無い、何か意味がないとそこにあってはいけないというのを、ずっと考えながら今回もプランニングしています。
『大工』は、舞台上で色んなものが建っては壊れていかなきゃならないので、俳優には、重いものもあったりして、かなり動いてもらってるんですけど(笑)。
私自身、演出とか全然、学んだことがないので、分からないことも多いんですけど、俳優がこういう動きをしたら面白いのかな、美術がこういう風に存在すれば、俳優がこういう動きをしてくれるかもしれないとか、そういうヒントになり得るものを、出来るだけ舞台に転がせるように考えています。
杉原: なるほどね。いいですね。(鈴木)正也とかも喋りなよ(笑)。
鈴木: 緊張しちゃって(笑)。大学の話でいうと以前、ダンサーの鈴木ユキオさんが造形大の春秋座で、公演をしてるっていうのを聞いて。邦生さん達も公演してるし、多摩美もそういう場所になれば、卒業した後に僕らが成長して帰ってこれる場所になるのかもなって。さらに学生にも見てもらえるような、そんな空間が出来たらなと。
杉原: 確かに。それは造形大のすごくいいとこかもしれない。大学に劇場があって、そこで公演するってことが、卒業後の活動のモチベーションのひとつに実際なってる気がする。小山さんとかはどうですか?
小山: そうですね・・・でも、なんか、いま話を聞いてて、私達1期生は自由だなあってことを実感してますね。この間、自分たちで『大工』にも関連した展示企画を学内でやったんです。一人一人が自分の個人作品を、ただ上演したり展示したりするっていうことをやって、なんかそういうことがもっと発展して、残りの時間は少ないけど、発信していけたら、それはすごくいいなあっていう風に思いました。
緒方: しかもその展示企画メンバーで東北に・・・
米川: ツアーに行きまして。
小山: 『大工』が被災地、震災の話でもあるから、フィールドワークも兼ねて。
杉原: なるほど。でも、絶対そういう変な企画はね(笑)、学生のうちにやったほうがいいよ。
小山: そうですよね、今しかできない。
杉原: そう、変なことやって怒られたり失敗できるのって、学生のうちだけだから。
緒方: 演劇と関係のないことは散々やってきた気もするんですけど(笑)。
杉原: それが後々けっこう重要だったりするし。
米川: 新しい舞台人を育てるって出来た学科なんですけど、演劇専攻の1期生には、いわゆる演劇人ばかりじゃなくて、アイドルになる人もいれば、声優もいるし、庭師になろうとしてる人もいるんですよね。
杉原: いいね〜。おもしろいね。
米川: そうなんです。そんな人たちが集まっているっていうのがまず面白いっていう。
杉原: へー。でも、そういうカオスな空間の方が、絶対面白い表現が生まれるよね。
本文は、公演当日に販売予定の「上演台本+特別対談集(タイトル仮)」より一部抜粋しています。
杉原 邦生
出家、舞台美術家。KUNIO主宰。1982年生まれ。
京都造形芸術大学在学中の2004年、プロデュース公演カンパニー“KUNIO”を立ち上げる。これまでに『エンジェルス・イン・アメリカ』(作:トニー・クシュナー)、『更地』(作:太田省吾)、『ハムレット』『夏の夜の夢』、柴幸男氏による書き下ろし新作戯曲『TATAMI』などを上演。その他、主な外部演出作品にKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『ルーツ』(脚本:松井周)、木ノ下歌舞伎『勧進帳』『三人吉三』『東海道四谷怪談―通し上演―』、歌舞伎座八月納涼歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』(構成)など。
最新作は、2017年12月23日(土)より東京芸術劇場シアターウエストにて上演される『池袋ウエストゲートパーク SONG & DANCE』。
HP:KUNIO official website http://www.kunio.me
緒方 壮哉
俳優、演劇専攻四年。1995年生まれ。
主な出演に『昔々日本』、木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』、ロロ×キティエンターテインメント『父母姉僕弟君』など。
鈴木正也
俳優、演劇専攻四年。1995年生まれ。
主な出演に木ノ下歌舞伎『東海道四谷怪談―通し上演―』、F/T『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』など。
湯川拓哉
俳優、演出家、演劇専攻四年。1995年生まれ。
主な作品(演出)に『オープンブルー』、出演に七味の一味『家族百景』、財団、江本純子『30分で愛は壊れていく』など。
米川俊亮
劇作家、演出家、俳優、演劇専攻四年。1992年生まれ。
主な作品(作・演出)にヨネスク「わっぱら@ジーバの庭」、「奥の森の方」など。出演予定にsons wo:「流刑地エウロパ」がある。
安部萌
ダンサー、俳優、演劇専攻四年。1995年生まれ。
主な出演に『近藤良平のモダンタイムス』、ままごと『交響曲「豊橋」(合唱付き)』『清竜人25ラスト♡コンサート』など。
小山薫子
俳優、演劇専攻四年。1995年生まれ。
主な出演に書簡演劇『エタック島の猫』、F/T『わたしが悲しくないのはあなたが遠いから』など。
須澤里佳子
舞台美術専攻四年。1995年生まれ。
主な参加作品(舞台美術)に『Theatresports』、『大工』など。