授業NO.002
授 業:
「風景を変えてみよう」
対 象:
渋谷区立長谷戸小学校 5年生 29名
日 時:
2004年9月17日・27日・10月18日・25日
「風景」を指標に、生きていない場(外部空間)を生きた場に変えることを通して身の回りの環境を見つめ考えるきっかけを作る。「花いっぱい運動」の一環として「人と植物が関わりの持てる場を作る!」
講 師:栗田 融(環境デザイナー/1990年本学建築学科卒業)

9月17日
1時間目 レクチャー「風景って何?風景は何でできている?」

机を下げて黒板のまわりに集まりましょう。先生も床に座って、同じ目の高さで授業をします。栗田先生は段ボールのパネルをたくさん持ってきました。パネルに貼ってあるのは風景画や写真です。この中に何が見える?人、道、家、風、空、風景は様々な要素からできていますね。別のパネルでは、いろんなかたちをした植物や、自然環境の仕組み、廃材について見ながら、話を聞きます。

「生きている場、生きていない場マップを作ろう!」
・校内の外部空間で、それぞれが生きていると思う場所、好きな場所、生きていないと思う場所、嫌な場所を選んで学校の地図にマーキングする。(良い場所は緑、悪い場所は赤)
・みんなでそのマップを眺めて「なぜその場所が生きていると思うのか?」「なぜその場所が生きていないと思うのか?」を話し合う。
「どこの風景を変えようか?」
・マップの中から、自分たちで風景を変えてみようという場所を決定する。(長谷戸小・小林先生のご担当)

9月27日
2時間目 ブレインストーミング「みんなで作るものを考えよう!」
校内のどこの風景を、どのように変えたいか、アイディアを考えてくる宿題はやってきましたか?アイディアごとに「浮く」「差す」「置く」「動く」「組み 合わせる」5つのグループに分かれます。場所は図書室前のテラスに決まりました。実際に現場を見ながら、ここをどのように変えるのかグループごとに話し 合いましょう。

10月16日 
材料の準備、調達
・ 材料はできる限り廃材を利用するよう計画し、手配の段取りも行う。
・ 制作する過程や制作された後の安全面に関しては、学校側と出前アート大学側とで協議し制作方法などを検討する。
・場合によっては、専門職(ex.多摩美の学生、溶接工、基礎工)に制作サポートをお願いする。

10月18日
3時間目 作業「場をつくる」
栗田先生からお話を聞いたら、スタッフの学生が各グループの作業を説明して、それぞれ制作開始です。塩ビパイプに底を作って植木鉢にしたり、酒樽に木の かけらをつけて色を塗ったり枕木でできた花壇もあります。みんなで協力して、アイディアをかたちにしていきます。これらのものが集まって、いったいど んな風景ができあがるのでしょうか。ペンキや接着剤が乾くまで、1週間待ちます。
・具体的な案(場所、材料、方法など)を説明する。

・ グループ毎に担当する作品を実際に作る。
「浮く」:切った塩ビパイプに針金で底を作る。周囲にチューブの切れ端を接着して飾る。
「差す」:塩ビパイプにチューブの切れ端を接着し、飾る。
「置く」:水性塗料で花壇を飾るための板材、木っ端を塗装する。
「動く」:樽に木片を打ち付け、全体を塗装する。「組み合わせる」:樽に木片を打ち付け塗装する。板材を組み立てる。

 


 

10月25日
4時間目 作業「場をつくる」
・各グループに分かれて作業開始
前回塗った部品を組み合わせていきましょう。別のグループでは、できた作品の設置場所を考えます。他とのバランスはいいか、外からきれいに見えるか、試しながら決めましょう。場所が決まったら土を入れます。ここに花を植えたらどんな風景になるのか楽しみですね。

「浮く」: 全体の様子を見ながら、設置場所をきめる。作った鉢を針金で柵に設置する。

「差す」:設置場所をきめる。2つの塩ビパイプを組み合わせ、花壇に設置する。

「置く」:作った花壇の底にビニールシートを敷き、砕いたブロック、土入れを行う。

「動く」:樽を台車に固定する。土入れをする。

「組み合わせる」:調整しながら組み立て、土入れを行う。

 

完成!
後日、みんなで花を植え、この場所を「フラワーガーデン」と名付けました。殺風景で生かされていなかった場所が、すてきな場所に生まれ変わりました。これからも季節が変わる度に、様々な風景をみせてくれることでしょう

記念撮影 「バンザーイ!」


出前アート大学授業No.002 「風景をかえてみよう」
講師 栗田 融 (環境デザイナー/1990年本学建築学科卒業)

「風景は変わった?」

 渋谷区立長谷戸小学校ではこれまで「花いっぱい運動」を続けられており、今回の「出前アート大学」は、その活動とリンクさせる形で環境デザインの授業を行いました。生徒たちが最も多くの時間を過ごしている学校内の「活用されていない場所を、自らの発想と手で生きた場に変えてみよう」というテーマを掲げ、頭で考え、手で考え、身体で考え、最後にその場を体感して今後さらにどう変えていったらいいかを「風景」というキーワードを通して考えてもらいました。風景って何?どーしてここは気持ちいいんだろう?なんで活用されていないの?何を感じて欲しいの?この素材を使う理由は?色を塗る意味は?この形なのは???生徒たちは「なぜ?」と取り組み、とうとう自分たちの発想と手で「生きた場」を作りあげました。廃材を利用したさまざまな形体が各所に配され、土が入れられ、花が植えられ、新しい空間が生まれたのです。これからは、水やりや施肥、掃除などの手入れが行われ、花が咲き、種が落ち、また花が咲き、枯れるものもあり、新たに植えられるものもあるでしょう。そーして、作られた後も身近な環境を見つめ、関わりを持ち、受け継ぐという新たな関係が生まれます。さらに、変化する素晴らしさを知り、もっともっと気持ち良い環境を、などと考える生徒が出てきたら、、、最高です。振り返ると、今回の内容はけっして数日でこなせるものではありませんでした。しかし、担任の先生と分担し、小学校と校友会とのコラボレーションによる授業を展開することによって実現できました。結果として、生徒にとっては新たな創造力や表現力などが発揮できる機会が持て、学校(先生)にとっては社会の様々な人々と協力し合って行う教育が実践でき、多摩美校友会にとってはOBのアーティストやデザイナーと社会との新しい関わりの機会を作れる、といったそれぞれのメリットが織りなされる「出前アート大学」ならではの授業であったと感じています。あらためて学校を訪れた際、作品の完成後に生徒が描いたという絵を担任の先生が見せてくださいました。どの生徒の絵にも、空間という作品を通して環境を見つめ感じた思いが、何とも豊かに表現されておりました。出前アートによって風景が変わっただけでなく、生徒の気持ちも確実に変わっていたのです。