授業NO.012
授 業:「立体色紙を作るー心を伝えるかたち」
対 象:神奈川県横須賀市立鶴久保小学校 6年生4クラス123名
日 時:2006年11月1日・2日
今回は樹脂を使ってレリーフを制作します。自分の名前は、誰がどんな願いを持って名付けてくれたのか、それを知って、感じて、その想いをかたちにしてみましょう。最後には123名、123通りの“心を伝えるかたち”が完成します。
講 師:加藤 雄章
(工業デザイナー/1962年本学立体デザイン科卒業)
2006.10.20 fri. 9:15〜10:15  「事前授業」
 123名という多くの児童へ向けての授業を行なうため、本番の一週間前に小学校を訪れ、事前に授業内容の説明と宿題を出しました。“心を伝えるかたち”というテーマを出し、身近である自分の名前の由来を調べ、17cm×17cmの枠の紙に、名前の一文字使って、自由に表現します。書道で表現しているような大きな気持ちでデザインをしてもらえるようにお願いしました。

2006.11.01 wed. 8:45〜9:30 「心を伝える」(講義)
 授業の当日です。加藤先生より、今回の授業へ向けた講義がありました。鉛筆やお箸、歯医者さんの使う器具や日本刀などを実例にとって、物に備わる軸のこと、その物を使用する人間との関係性を分かりやすく説明してくれました。スライドでは、刀の鍔(柄を握る手を保護する板)を紹介し、武士の心情を表した伝統的なデザインに触れ、その中に物語性があることも知りました。
9:30〜12:05 「文字&版の作成」
 123名が12グループに分かれ、担当のスタッフと一緒に作業をしていきます。あらかじめデザインしてきた名前の一文字をスタッフに見てもらい、大きさなどの微調整をして、同じ大きさのスチレンペーパーに用紙を貼付けます。その後、文字をカッターで抜いて、名前の版を作ります。できたら樹脂を入れるために20cm×20cmの外枠を作ります。素材は名前の版と同じスチレンペーパーで、専用の糊で箱形の枠を完成させます。底の部分に、切り抜いた名前の版を反転させて貼り込めば、型の完成です。






13:40〜14:50 「樹脂によるレリーフ造形」
 いよいよレリーフ制作の本番です。まず、型枠に樹脂が貼付かないように、離型剤を丹念に塗り込みます。その後、二人一組になって樹脂と硬化剤を練り合わせ、型に詰めていきます。 粘土のような樹脂の感触を楽しみながら作業しました。最後に型の裏に名前を入れて、1日目の授業は終了です。これから7時間かけて、樹脂を硬化させます。

2006.11.02 thu. 9:30 〜10:45
 2日目の授業です。樹脂が固まったので、型を外していきます。スチレンペーパーをパリパリと気持ちよく剥がし、細かいところは竹の割り箸のヘラを使って、きれいにします。自分のデザインした文字が立体で現れると、みんなの表情が誇らしげになってきました。その後、紙ヤスリを使って表面を整えます。
10:45〜12:05 「鑑賞と講評」
 まずはグループごとに、作品を鑑賞します。グループの担当スタッフが中心になって、児童の名前の由来や、どんな風に制作したのかなどを聞きました。その後、作品を並び変えてクラスごと、最後には1枚のタイルのように並べて鑑賞しました。加藤先生から、この授業でドキドキワクワクしながら作った気持ちを忘れずに、物と人、人と人同士の対話をして、これからも制作して欲しいとメッセージをいただきました。


■おわりに
 初めて100名を越える児童に授業を行ないました。人数や作業工程が多かったので、最後まで到達できるか不安もありましたが、全員が自分のレリーフを作り上げることができました。みんなの豊かな感性が伝わってくる、123名、123通りの“心を伝えるかたち”が立派に完成しました。

出前アート大学授業No.012
講師 加藤雄章(工業デザイナー/1962年本学立体デザイン科卒業)
 

今日まで約45年間プロダクトデザインに携わり、並行してその内の約20年間をデザインの教育に関わってきましたが、今回は「出前アート大学」を通して横須賀市立鶴久保小学校の6年生の皆さんに「デザインの意味」を伝える機会を得て、私の人生観でもあるデザインとは「自分の生き方の表現」であり「人の生き方の提案」であるという思いと、日本人が古来より大切に培ってきた精神文化の一端である「心を伝えるかたち」を子供達にどのような伝え、どのような作品造りをするかを試行錯誤しながら計画を建てました。
 対象人数が4クラス123名と聞いて惑いましたが、この人数のパワーを活かすことを起点にしたテーマを模索した結果、個人の思いを込めた作品が集合して大きなレリーフになる「立体色紙」の造形をすることになりました。最初のガイダンスで日本人の知恵の結晶である「心を伝える方法」の一端をスライドと実物で示しながら、日本刀、鍔、家紋、家名と解説していき、子供達はその先端に自分の名前の由来と意味を調べ、その一文字に思いを込めて表現し、立体色紙(レリーフ)に造形することができました。
 「案ずるより産むが易し」の諺の通り、子供達は最初の戸惑いはあったものの、この一日半の時間の中で見事に作品を造り上げ、感動の内に終了することが出来ましたが、その影には校友会はじめ参画した方々の協力とチームワークがあったことを報告し感謝します。