授業NO.009
授 業:「目かくしアート」
対 象:茨城県結城市立城南小学校 3年生2クラス79名
日 時:2006年6月2日
2006年度第一回目の授業は、茨城県結城市立城南小学校で行ないました。講師は、画家の須田基揮氏(1976年院油画修了)です。3年生の児童が、目かくしをし、友達に誘導されて、校庭を歩き回ります。何かに触ったり音を聞いたり、においを嗅いだり・・・感じたことを2つの技法を通じて、1枚の作品に表現します。
講 師:須田 基揮
(画家/1976年本学大学院油画修了)

6月2日
「ブラインドウォーク」2006.06.02.fri.8:30〜9:20
 となりの人とペアになりましょう。1人は目かくしをして、もう1人は目かくしをした人の手を取って誘導します。先生が手を「パンッ!」と叩いたら、ブラインドウォークのスタートです。危険のないように、友達を気遣いながら、広い校庭を誘導しなければなりません。
 

校庭の中に存在しているもの、木、葉っぱ、土、鉄棒、滑り台、タイヤなどを、視覚を閉ざした状態で触れてみます。温かいの?冷たいの?柔らかいの?固いの?どんな触り心地なのでしょう。最初は恐る恐る触ってみますが、安心できるとなでたり、たたいたりして、そこから様々な感覚を得ることができました。


15分経ったら、先生のそばに戻ってきます。先生が再び「パンッ!」と手を叩いたら、目かくしを外します。しばらく視覚が閉ざされた状態から、視界がパアーッと広がることで、あちこちで歓声があがりました。ペアを交代したら、再び出発します。

9:20〜10:25「フロッタージュ」
 ブラインドウォークで感じた感覚を、フロッタージュで表現してみましょう。
物に紙をあてて上から鉛筆でこすると、表面の形や模様がでてきます。
全部が芯で出来ているグラファイト鉛筆を使用して、ブラインドウォークで感じた感覚を、紙の上に写しとります。みんな夢中になって、模様が出てきそうな材質の物を探していました。色鉛筆も使いながら、カラフルに仕上げました。


10:25〜11:15「コラージュ」
 たてよこの長さが1m以上ある大きなパネルに、8人1グループになってコラージュしていきました。フロッタージュした紙を素材にして、好きな大きさに切ったり貼ったりして、1枚の作品に仕上げます。絵を描き足したり、紙を盛り上げて立体的に見せたり、グループごとに違う作品が出来上がっていきました。







■完成
 8グループ合計8枚の作品が完成しました!大きなパネルをグループ全員で前に運び、鑑賞します。予想しなかった出来映えの作品たちを目の前に、先生も感激したようです。それぞれのグループへ向けた的確なコメントをもらって、児童も真剣に耳を傾けていました。

出前アート大学授業No.009
講師 須田基揮(画家/1976年本学大学院油画修了)

 

目かくしアート=ブラインド・ウォークは、これを始めて20年くらいになるでしょうか。美術館などのワークショップや大学の授業でも試みを重ね完成度も高まり、さらに高度なハイパー・バージョンも考え出しています。ブラインド・ウォークに始まる一連のプログラムはプロセス1に始まり、次の2ではモダン・メチエへと繋ぎ、抽象表現へのアプローチとしても効果的です。現時点ではプロセス3まで確立していますが、今回のプログラムはプロセス1の段階で、想像力と直観を刺激し、結果として創造性、表現力を高め、視覚も「見る」から「観る」へと鍛えられます。
 今回の小学生80人を対象にというのは初めての経験でした。80点の講評は時間的にも不可能であろうと、担当理事方の提案により、グループによる共同制作ということになりましたが、この提案は実に興味深いものでした。それは、ブラインド・ウォークとフロッタージュで全員が共有できる体験をしているということもあり、シュールリアリズム遊びの「優美なる死骸遊び」のような現象が、つまり一種のオートマティズムが機能するのではないかと想像したのです。この期待は見事に的中しました。画面の各部分は互いに対立し違和感が生じているにも関わらず、グループごとに共有された意識が働いた結果、部分と部分が呼応し全体として調和し、躍動的で迫力のある表現や優雅で気品さえも感じられるものも、あるいは題名を掲げ、物語性のある表現を試みたグループもあるなど、なかなかの見応えでした。
 授業中の彼等はワイワイガヤガヤと賑やかなものでしたが、オモシローイ!スゴーイ!キレイ!などと口走りながら夢中になっていた姿は印象的でした。
 作品によるコミュニケーションや結果としての感動はアートの二次的側面に過ぎません。考えること、創ること自体が目的であり、行為の最中に起る感動と発見の喜び、これこそがアートの原点なのだと思います。