企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

アートな感性と芯のあるビジョンの融合で、まだ見ぬデザインの境地を切り開く存在

株式会社イトーキ

左から、人事本部人事統括部人材開発部部長の小泉佳子さんと卒業生の中津川美希さん。2025年夏に放送されたドラマ「初恋DOGs」のロケ地としても利用された最先端オフィスにて

1890年創業の老舗企業としてオフィス家具製造・販売から、ワークプレイス事業(オフィス空間の設計・コンサルティグ等)や設備機器・パプリック事業(物流施設や公共施設等の設備機器提供や空間づくり支援)を展開。また、データドリブンによる最適な働き方・オフィス空間提供サービスの開発・展開にも力を入れている。
https://www.itoki.jp/

2025年11月更新


「機能性も感性も」アート視点と明確なビジョンでオフィスワーカーの快適性を追求

小泉佳子さん
小泉佳子さん

株式会社イトーキ

人事本部人事統括部人材開発部部長

もともとはオフィスメーカーとして始まった弊社の事業は、現在、オフィス空間の設計・コンサルティグといったワークプレイス事業や、物流施設や公共施設などの設備機器提供や空間づくりを行う設備機器・パプリック事業の2つの事業が中核を担うようになりました。

さらに、オフィス関連の知見を活かし、さまざまな方法で収集・集積したデータに基づいた最適な働き方・オフィス空間の開発・展開といったデータサービス事業にも注力しています。ミッションステートメントは、「明日の『働く』を、デザインする。」。人を中心に据え「働く」をデザインし、お客様の働く「空間」「環境」「場」づくりを支援しています。

弊社に多摩美の卒業生が入社したのは約20〜30年前からで、その後も多くの方が入社し、プロダクトデザインや商品企画など多方面で活躍しています。中津川さんが所属するCMFチームの5名中3名は、多摩美出身者で、市場の必要性等を考慮しながら、各自が感性を活かして仕事に向き合っています。

多摩美出身の方たちに共通しているのは、芯がしっかりしていること。学生時代から様々なことに触れ、刺激を受け、自分らしさを発揮してきたからでしょう。皆さん、はっきりとしたビジョンを持って自分の意見を発言できるから、会議の場も活性化します。商品開発の過程では提案されたものに対して、様々な部署の社員が意見を述べます。議論の中で他人の異論を受け止めながらも、ネガティブな雰囲気にならず、建設的なコミュニケーションが図れる能力にも長けているため、商品開発が自然とブラッシュアップされていきます。

オフィス空間の中でいかに生産性を上げるか。これまで機能性が大きく問われてきました。しかし、今後は働く人たちが「その空間に集まりたくなる居心地の良さ」といった、空間に内包されるCMFの要素を含めた快適性がより求められるでしょう。そういった観点からも、中津川さんをはじめ、多摩美出身の社員の感性はますます働く人の環境づくりにおいて、重要な役割を担っていくだろうと考えています。

「ものづくり」への多様な視点を得たことがデザイン設計するいまの仕事に活きている

中津川美希さん
中津川美希さん

2024年|テキスタイルデザイン卒

株式会社イトーキ

商品開発本部 プロダクトデザイン部 CMFデザインチーム

現在所属しているのは、オフィス家具のCMF(Color、 Material、Finish)をデザインするチームです。
私たちのチームは、イトーキらしさのデザイン指針として、「ITOKISENSE」という4つのシーズンコンセプトを立ち上げています。 時代の流れを反映しながら、配色による印象や素材の肌触りといった五感に訴えることで、働く人の感情や思いに寄り添いエンゲージメントを高めるためのデザインワークをしています。

最先端のトレンドや最新オフィスを調査しコンセプトを組み立てるだけでなく、製品のCMFデザインでは、工場に赴き、現場の方とコミュニケーションを重ねて質を高めていくこともあり、仕事の幅が広く、やりがいがあります。

学生時代は自分が好むものや色などを追求した制作が中心でしたが、オフィス家具は公共性に近いプロダクト。だからこそ、経年劣化していくようなものでなく、それらを使用する人たちに長く愛されるものが求められます。学生時代とは違った、新たな挑戦として学び続けられる仕事に携われたことに幸せを感じます。

多摩美ではテキスタイルデザインの知識はもちろん、藤原大教授からの指導で「ものづくりは意味づくり」を強く意識し、制作物について「伝え方の表現方法の大切さ」を学びました。実際、服を制作する課題でも、布を作り、パターンを引くところから始まり、モデル・カメラマンの手配、写真加工、展示まですべてのディレクションをする。そこまでひっくるめて「何を伝えたいか」「どう表現したら伝わるか」など、多くのことを学べた経験は、社会人になってから表現の幅を広げる助けになっています。また、学生生活はユニークなタイプの学生も多く刺激に満ちていました。一方で、「自分はこうだ」という1つの軸を持つ人を見ると、「自分の軸は何だろう?」と、必死に突き詰め模索する日々でした。何気ない日常の中でも、例えば、ある昆虫を見たら「この柄面白いかも」と考えたり言語化したり、自分の作品を顧みながら、「自然や農業」といった軸を見出せたと思います。その後の制作は自信をもって取り組め、卒業作「Farm」では、酪農の課題をただ深刻に伝えるのではなく、ポップに可愛く、前向きなメッセージとして伝えることを意識し、完成させることができました。

大学進学を考える際、アートやデザインに興味を抱きながら、「絵が描けないから」といった理由で、美大を諦めるのはもったいない。絵がうまく描けなくても、発想や思考することが楽しいと思えるなら、多摩美を目指してみて下さい。突拍子もない発想をする人に出会え、面白い人脈もできる。私のように高校時代は「フワッとしたタイプ」でも、大学の4年間で自分の軸を確立させることができました。学生生活の中でそれを探す努力は険しくつらいこともあるかもしれません。それでも、面倒くさがらずに行動し続ければ、きっと自分の軸がみつかると、私は思います。

デザインの世界は既に飽和状態になっている実感があります。その点で、今職場で取り組んでいるCMFデザインは他との差別化になり、これまでにない新たなデザインの価値を示せる領域として、今後はより注目されるはずです。周囲と自分の期待に応えられるよう、これからもデザインの道を歩んでいきたいと思います。