企業の人事担当者・卒業生に聞く/飲料・食品・フードサービス

多摩美で培った「言葉でデザインを表現し、価値を伝える力」が、ディレクションに活きている

カゴメ株式会社

左から、ブランドコミュニケーション部デザイングループ 卒業生の中島天音さん、課長の野村祥子さん

1899年創業の野菜を中心とした食品・飲料を手がける大手食品メーカー。農業支援から商品開発、流通まで一貫して取り組み、自然志向、健康志向に合った商品を幅広く展開している。「トマトの会社から野菜の会社に」というビジョンを掲げ、健康寿命の延伸、農業振興・地方創生、そして持続可能な地球環境への貢献に取り組んでいる。
https://www.kagome.co.jp/

2025年10月更新


必要と思われる情報を自ら調査し社内に発信するなど、デザイン視点を生かした行動が、商品開発に好影響を与えている

野村祥子さん
野村祥子さん

カゴメ株式会社 東京本社

マーケティング本部

ブランドコミュニケーション部

デザイングループ 課長

私たちの部署では、すべてのカゴメ商品のパッケージデザインのディレクションをしています。最近はデザインの領域が広がり、単なるパッケージデザインにとどまらず、ブランディングを一貫して表現を統一する役割を担っています。さらに、マーケティングやディレクション力を含めた総合的なスキル強化も進めています。ブランディングには、ロゴなども含めて企業全体を示すコーポレートブランディングと、野菜ジュースなどの商品ごとのプロダクトブランディングがありますが、これらを通じて「カゴメをどう伝えるか」は、デザインが担っている部分は大きいという意識を持っています。

中島さんは若年層のトレンドを自発的にまとめ、ビジュアルを工夫して社内に発信しており、マーケティングや商品開発にも役立っています。その情報は人気が高く、他の部署からも要望されるほどです。さらに若年層のデザイン嗜好など、デザイン視点での調査報告も発信していて、私たちにとって大きな刺激になっています。ビジュアル表現の巧みさ、デザイン視点でまとめる力など、美大卒ならではの強みが活かされていると感じます。また、中島さんのコミュニケーション能力の高さには感心しています。デザイン業務は多くの人と関わり、チームで進めていきますので、大いに活かせる力です。彼女には、そうした強みを活かしどんどん自分の色を出して、躊躇なく挑戦していってほしいと思っています。

今、クリエイティブに関わる人たち求められているのは、デザインの技術だけではありません。開発者から商品の提案があったときに、それを膨らませてお客さんにとっての価値に変換し、デザインのコンセプトを明確にしてデザイナーに伝えていくことが必要です。また、社内の多くの人が関わる業務ですので、プロジェクトマネージメントの要素がとても重要になってきます。こうしたトータルスキルが必要だと思います。そして、デザインの組織としては、美意識を持って仕事に取り組むことが重要だと考えています。美大卒の方は、当然デザインのスキルを身につけていると思いますが、心のうちにあるそれぞれの自分自身の美意識を大切に、それぞれの力を発揮してくれることを期待しています。

商品開発の初期段階から関わり、ゼロからつくり上げていく過程にやりがいを感じる

中島天音さん
中島天音さん

2023年|グラフィックデザイン卒

カゴメ株式会社 東京本社

マーケティング本部

ブランドコミュニケーション部

デザイングループ

私は、パッケージデザインのディレクションに携わっています。入社して1年ほど、先輩が担当しているデザインのサブ担当として学ばせていただいた後、メインの担当になりました。具体的には、「野菜生活100」のペットボトルの季節限定品などです。また最近は、「生鮮」カテゴリーのデザインに携わり、トマトや他の野菜にも挑戦しています。

「野菜生活100」のパッケージデザインでは、ブランド価値を守りながら、ターゲットにどれだけ魅力的に伝わるかを考えてブランディングを行っています。たとえば、「野菜生活100あまなつ&オレンジミックス」は子ども向けの商品なので、お子さんに「かわいい! おいしそう!」と手に取ってもらえるよう工夫しつつ、親御さんにも安心いただけるようなイメージでデザインを作りました。

開発の初期段階からチームで関わり、ゼロからつくり上げることに、とてもやりがいを感じます。商品コンセプトやターゲットに合ったデザインを、メンバーの皆さんと意見交換し、試行錯誤しながら形にしていく過程は楽しいです。さらに、完成した商品が店頭に並び、知人やお客さまに手に取ってもらえることに喜びを感じています。

多摩美の1、2年生ではデザインに必要な基礎力を徹底的に学ぶことができ、表現する力を身に付けることができました。カゴメのパッケージ制作では果実や野菜のおいしさを伝えることが大切で、その表現には基礎的な力が重要です。私はディレクションを担当していますが、自分自身に基礎力があることはデザイナーさんに依頼する際にも助けになります。3、4年生のときには、プレゼンを重視する教授のもとで学び、講評制度の中で緊張感のある高いレベルの発表を経験しました。その環境で培った「言葉でデザインを表現し、価値を伝える力」は、今の仕事に活かされています。また、クラブ活動などを通じて幅広い人と交流し、多様な感性や才能に触れられたことも大きな刺激になりました。

美大で学んでいく上では、「なぜクリエイティブに関わりたいのか」という、原点ともいえる思いを忘れないことが大切だと思います。その思いを軸に学科や授業を選ぶと、ギャップに悩まず前向きに学びを積み重ねられます。結果として「この道を選んでよかった」と実感できるのではないでしょうか。今の仕事は、自分の原点とつながっていると感じています。