企業の人事担当者・卒業生に聞く/飲料・食品・フードサービス

「アミノバイタル®」「Cook Do®」「鍋キューブ®」などの開発からパッケージ、広告までを担当

味の素株式会社

写真左から卒業生の鐘ヶ江修市さん、矢島瞳さん、照喜名省吾さん。東京・中央区の同社前にて

「味の素」をはじめとする調味料や加工食品など、食品を中心にアミノ酸をベースとした研究に取り組み、「調味料・食品」「アミノサイエンス」そして「医薬」「健康分野」などの事業を展開。アジアを中心に世界各地にグループ企業や工場を持つ。
https://www.ajinomoto.co.jp/

2024年6月更新


多摩美生は皆をわくわくさせるような着眼点や発想力が高いと感じる

鐘ヶ江修市さん
鐘ヶ江修市さん

1989年|グラフィックデザイン卒業

味の素株式会社
食品事業本部 マーケティングデザインセンター
コミュニケーションデザイン部
エグゼクティブスペシャリスト
クリエイティブグループ長

当社は「アミノサイエンス®で、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」という志を掲げています。その実現と事業の成長を目指し、我々の部門では、コミュニケーションを通じて100年先も愛されるブランドづくりやファンの醸成に取り組んでいます。我々が作り出すコミュニケーションで驚きや感動を生み出し、世の中を元気にしていくということをいちばん大切にしています。その一例として、2024年3月に、日本の家庭のフードロスの解消に向けたアクションを促すために、廃棄食料で作られた巨大怪獣「フードロスラ」が街で大暴れするという新聞広告とWEB動画などを制作しました。「子どもがごはんを残すとフードロスラが来ちゃう!と言って食べてくれるようになった」など、狙っていたとおりの反響があり、嬉しかったですね。

当社のクリエイティブ部門は、商品のネーミングからパッケージ、広告、販促までコミュニケーション全体を一貫してコントロールしているのが特徴で、そこが強みであり、一番の楽しみでもあります。現在当社に在籍している多摩美の卒業生は私も含め4名で、「コンソメ®」「アミノバイタル®」「Cook Do®」「鍋キューブ®」などのブランドを担当し、社内外の広告賞を受賞するなど大いに活躍しています。現在、世の中のコミュニケーションが多様かつ複雑化していることもあり、お客様の生活に寄り添い、テレビや新聞といったマスメディアだけでなく、オウンドメディアやSNS、PRなども含めた立体的な展開を重要視し実施しています。メンバーはオーケストラの指揮者のような役割で、ブランドイメージをどう育てていくかといったコミュニケーション全般のクリエイティブを担ってくれています。

商品開発において、クリエイターにはマーケターと異なる専門性が求められます。クリエイターは「もっとこうしていくと世の中が面白くなるんじゃないか」と、皆をわくわくさせるような着眼点や発想力がそもそも高いと感じています。クリエイティブのクオリティをコントロールして魅力的な商品まで仕上げる力も持っており、いかんなくその存在感を発揮しています。従来の枠にとらわれず、柔軟に発想できるのはクリエイターの持ち味です。アイデアをよりスケールアップしてアウトプットしていくために、周囲の皆を巻き込んで連携していくという点でも期待を寄せています。


多摩美で過ごした4年間で、
課題解決に最適な表現方法を選ぶ目を養った

照喜名省吾さん
照喜名省吾さん

2011年|グラフィックデザイン卒業

味の素株式会社
食品事業本部 マーケティングデザインセンター
コミュニケーションデザイン部
クリエイティブグループ

直近で手がけたのは「Cook Do®」のシリーズで、「ひき肉入りこどもの甘口麻婆豆腐」という商品です。「Cook Do®」は本格中華のブランドとして長く続いているブランドですが、子どもに特化した商品は今回が初めてのことでした。パッケージや広告を作るうえで「小さなお子さん向けの商品であることを一目でわかってもらうには、どう表現したら良いか?」という点で苦心しました。たくさんの商品が並んでいる麻婆豆腐棚で、親御さんの目に止まったり、お子さんに「かわいい!」と言ってもらいたいと思い、お皿に顔をつけるアイデアを採用しました。

当社ではひとつの商品のパッケージから広告までを一貫して担うので、お客様に商品をどう届けるかを考えるのも我々の役目です。「この商品を欲しがっている人のもとに間違いなく届けたい」という思いがモチベーションであり、責任を感じる部分でもあります。

大学在学中は広告コースにいたので、アートディレクションやポスター制作が主でしたが、選択科目でなんとなく受講したWebの授業で、「どうすれば人がおもしろく感じるか、どんな仕掛けがあると人はバナーをクリックしたくなるか」といったことをディスカッション形式で学んだことがすごく印象に残っています。今の仕事でも「どこが人の心を動かすポイントなのか」を探ることが重要だと感じるので、当時の学びとすごく結びついているなとあらためて感じます。私は浪人して入学したので、工芸学科の1学年上に一緒に浪人していた人がいたり、油画専攻に友人がいたりして、グラフィックデザイン学科以外の人と交流していたことでいろいろな表現方法を見ることができました。それが課題を解決したいっていう軸のもと、最適な表現方法を選ぶ目を養う時間になったのかもしれません。

卒業後にデザイナーとして就職して、パッケージデザインに関わるようになって楽しかったのですが、パッケージだけじゃなくてCMやコミュニケーションもやりたいと思い、1年前に味の素(株)に来ました。「自分はこれだ!」と決めて在学中に突き詰めるという方もいるでしょうが、私の経験上、自分の選択肢を狭めないで可能性を広げておいた方が、のちのち動きやすいかもしれません。デザイン業界は広いから、いろいろなことをやれるような土壌を学生時代に作っておくと良いのかなと思います。


デザインとは「課題解決」だと学んだことが、
今の仕事につながっている

矢島 瞳さん
矢島 瞳さん

2019年|統合デザイン卒業

味の素株式会社
食品事業本部 マーケティングデザインセンター
コミュニケーションデザイン部
クリエイティブグループ

「Cook Do®」シリーズの「極(プレミアム)麻辣麻婆豆腐用」のパッケージのディレクションを担当しています。本格的なスパイスと調味料にとことんこだわり絶妙なバランスで配合した麻婆豆腐好きのための麻婆豆腐の素で、コンセプトが突き抜けている商品です。店頭で麻婆豆腐が並んでいる中でどう目立つかが大事だったので、まずは存在感を出して見つけてもらうことを心がけました。また、競合品に比べて高価格帯のため、それに見合うデザインも必要でした。

そこで、「CookDo®」シリーズでありながらも、従来品とは一味違うものとして見せるにはどうするかを考え、真っ黒のマット加工に金色の文字で「極」の一文字を見せる、インパクトのあるデザインを検討しました。通常よりもかなり早い段階で製造工場や包材メーカーとも連携することで、理想通りのパッケージが実現できたので、自分のなかでも特に思い入れの強い商品になりました。SNSで「店頭で気になったから買った」「パケ買いします」といった反響を見かけたときは嬉しかったですね。また、自分だけでなくチームの皆や会社全体がすごく元気になって、「これからも頑張ろう!」と周囲が活気づいたのも嬉しかったです。みんなで良い仕事ができると、単純に売上が伸びるだけでなく、会社にそれ以上の良い影響が与えられるのだなと感じました。

多摩美の統合デザイン学科で「コミュニケーションデザイン」という言葉を知り、デザインとは「課題解決」だと学んだことが、今の仕事につながっています。学生時代は、子どもが楽しく食べられるようにカラフルな鉛筆型のふりかけや、カロリーで選べるようなチョコレートを考えて、学外のコンテストに応募したりしていました。3年生になってプロジェクト(ゼミ)に所属してからは、明確な課題は与えられず、自分で見つけるところからのスタートだったので、「そもそも何を作ったらいいんだろう、どうデザインすればいいんだろう」と悩みました。今の仕事もそれに似ていて、明確な課題があるときもあれば、自分で見つけに行かないといけないこともあります。広い海に飛び込んでいくような感じですが、大学でも何度も経験してきたことなので、楽しみながらチャレンジしています。

うぬぼれかもしれませんが、私たちが所属するクリエイティブグループは、会社でとても必要とされていると感じています。商品開発の部署と共にターゲットやコンセプトから検討する機会も多く、画力やデザイン力だけではなく、発想力や物事を客観的に見る力が求められているのだと思います。