企業の人事担当者・卒業生に聞く/メーカー

世界の人々の暮らしを豊かにし愛用される商品をつくることにやりがいを持って挑んでいる

花王株式会社

写真左から第2ブランドクリエイティブ部部長の能村美穂さん、卒業生の山田菜穂子さん

1887年創業の国内大手の日用品メーカーで、「豊かな共生世界の実現」をパーパスに掲げて、ハイジーンリビングケア事業、ヘルスビューティ事業、化粧事業、ケミカル事業を展開している。創業以来、生活者に寄り添い、生活を豊かにする商品やサービスを創造する「よきモノづくり」を追求し続けている。
https://www.kao.com/jp/

2025年6月更新


言葉で伝わりにくい思考や概念を
絵で表現できる力は
チームでのよきモノづくり」に大きな役割を果たす

能村美穂さん
能村美穂さん

花王株式会社
コンシューマーケア部門
作成センター
第2ブランドクリエイティブ部 部長

花王の商品の多くは、みなさんが スーパーやドラッグストアで手軽に買える、暮らしに密着した商品です。そのため、常に生活する人たちのことを考えたものでなくてはなりません。目指しているのは、単に便利で役に立つだけではなく、その先にある、快適さや満足感を与えられる商品です。その商品によって、暮らしがちょっとうれしくなるとか、喜びに変わる、満足につながる、そういう存在でありたいと思っています。私たちクリエイティブを担当する部署としては、お客様が商品と良い出会いができるように、また、商品を使うことが心の豊かさや満足感につながるようにと考えて、デザインに取り組んでいます。

私たちの会社で働く多摩美の卒業生は商品デザイン(パッケージ・プロダクト)や、広告、コーポレートなど、さまざまなクリエイティブを担うチームで業務に携わっています。その中の1人は、プロダクトデザイナーとして活躍しており、最近のヒット商品でもある、泡がスタンプで出るハンドソープの容器をデザインしたチームの一員です。この商品は、手洗いを義務ととらえるのではなく、お子さんにも楽しく手洗いをしてほしいという思いから、開発、商品化したものです。ユニバーサルデザインの視点で、ボトルの形や安定感、泡の出やすさなどに配慮し、繰り返し試作してつくり上げてきました。特に、泡スタンプの形や、泡が常に失敗なくきれいな形で出るようにするためには、デザイナーのアイデアや工夫によるところが大きかったと思っています。

多摩美の卒業生には、花王で働く動機として、暮らしに寄り添うものをつくりたいという想いや、サステナブルな視点、社会貢献の気持ちがある方が多い印象です。ですから、自分のつくった商品や広告が日本中、さらに世界の人々に届き、愛用されることに、やりがいを持って挑んでいます。

私たちはチームとして、目的意識を持って高いモチベーションで業務に取り込む方をサポートしたいと思っています。事業に結びつくように、自発的にトライアルを重ねる積極性を大切にし、チームで結集して形にしていきたいと考えているのです。美大卒の方には、言葉だけでは伝わりにくい思考や概念を、絵として表現する力があります。これは、チーム内で考えを共有し、さらに広げていくために大きな役割を果たします。ここは美大卒の方の強みでもありますし、大いに発揮してほしいと思っています。


多摩美でデッサンや造形を徹底的に学んだことが
今の自分のベースになっている

山田菜穂子さん
山田菜穂子さん

2008年|グラフィックデザイン卒

花王株式会社
コンシューマーケア部門
作成センター
第2ブランドクリエイティブ部
ファブリックホームケアグループ

入社以来、花王の商品のほとんどのカテゴリーに関わってきて、今は主に洗濯用洗剤やホームケア用品をデザインするチームにいます。花王の商品は大量に生産されるので、自分のデザインが一気に日本中に並ぶことが、一番おもしろいと感じます。店頭で商品を手に取る人を間近で見ると、すごくテンションが上がりますし、モチベーションにつながります。一方で、多くの人に届けるデザインには難しい面もあります。学生の頃は、自分が好きなもの、周囲の好みといった小さな世界でものづくりをしていましたが、今、取り組んでいるデザインはそれとは異なります。多くの人の目に触れるリスクを考える必要がありますし、「多くの人に好まれるとは?」「使ったときにどう見えるだろう?」と考えるなかで、自分のセンスで良いと感じるものとのバランスは、今でも難しく感じています。

そのなかにあって、柔軟剤の「IROKA」は、クリエイティブ中心にブランド開発してきた、新しい試みの商品です。女性からあふれる魅力や感性を香りで表現するというブランドコンセプトのもと、アート志向で直感を大事にしたデザイン手法でつくっているので、クリエイターの感性を活かし、結構尖った世界観になっていると思います。一人の人が何に興味を持っているか、どのようなファッションでどのような生活をしているかなどを、調査・観察して、一人の好きや思い入れを突き詰め、感性を具現化していった商品です。「IROKA」のファンになってくださる人も多く、一人の好きを追い求めていけば、それもまた多くの人に届くのだと実感しています。

私はグラフィックデザイン学科卒ですが、1、2年生のときに、デッサンや模写、造形の授業を受けて、それを徹底的に学んだことが今の自分のベースになっています。1つの絵や造形物を仕上げるためには、解像度を上げて見たり、俯瞰して見たり、あるいは、どのような世界観をつくるかを考えなければなりません。これは今、商品の企画を考えるとき、自分が良いと思うものを凝縮して考える部分と、多くの人たちが見るという俯瞰、さらに世界からどう見えるかと、さまざまな視点が必要とされることと同じです。すべてがデッサンにつながっていると感じています。また、私はブランディングやパッケージの授業を多くとっていました。商品企画から、商品のパッケージ、広告まで一貫してつくることが、おもしろかったと印象に残っています。これもまさに今、仕事としてやっていることと同じで、多摩美時代にとても意義ある学びができたと思っています。多摩美での友人関係は今もずっと続いています。それぞれに会社や立場も違い、独立している人もいるし、第一線で活躍している人も多いですが、今も学生時代の関係性のままに話ができることが、糧になっています。これも多摩美での学生生活の大きな収穫です。

クリエイティブ中心にブランド開発してきた柔軟剤の「IROKA」