「多摩美術大学1997-98-99」の刊行にあたって

 

学校法人 多摩美術大学
理事長  藤谷 宣人

 

 このたび多摩美術大学は「多摩美術大学1997-98-99」を刊行する。これは、多摩美術大学の教育研究活動、施設設備、管理運営、事務組織、財政などの全体像を公開し、社会の評価を受けようとするものである。
 現在、我が国の大学を取り巻く状況は、少子化、高齢化の進展は言うに及ばず、国際化、情報化、社会の高度化等の中にあって、大きな転換点に立っている。いわば激動の時代に突入したと言っても過言ではない。
 '91年には大学設置基準の大綱化が行われた。この中で自己点検・評価が努力義務とされた。'92年、本学は21世紀の大学像を全学的視野から検討するため、学内に教育充実検討委員会を設置し、その中に自己点検・評価部会とカリキュラム検討部会を設けた。'98年には生涯学習部会を加え、現在はこの3部会で構成され活動している。
 自己点検・評価部会は全学的な組織で構成され、様々な検討活動を行った。その成果が'94年ファカルティー・'95シラバスの発行となり、以降毎年継続されている。部分的ではあるが、学生による授業評価も行っている。'99年4月に辻惟雄学長の就任を機会に、美術学部各学科ならびに造形表現学部各学科の現状と問題点について、学長、自己点検・評価部会長、同副部会長よりなるヒアリングを行った。
 '92年の教育充実検討委員会の設置を契機として、多摩美術大学の21世紀像の検討が始まり、'94年から教育組織の見直し、特にデザインを中心に改革することとなった。これにより新設の情報デザイン学科と改組転換による工芸学科、生産デザイン学科、環境デザイン学科、名称変更によるグラフィックデザイン学科の5学科を'98年4月から開設した。同時に大学院についても'98年4月から芸術学専攻を開設した。また我が国では唯一の夜間の美術教育を行う学部として美術学部二部を'89年に開設したが、更なる生涯学習のニーズに応えるため、これを改組し造形表現学部として'99年から開設した。
 多年の念願であった八王子校舎の抜本的整備は'94年の土地問題の解決を見、翌年の建設工事の着手に至った。絵画北棟をはじめとして、各棟の建設は順調に進捗し、本年10月末竣工予定のメディアセンターをもって前期計画は終了することとなる。この八王子校舎の大整備と教育組織の見直しが同時にかみ合って進行し、現在に至っていることは本学の教育改革の適正化と円滑化を図る上で幸運であったと言えよう。奇しくも本学のこれまでの歴史を振り返り、新しい時代への飛躍を印象づけた創立60周年記念式典が行われた'95年に、これら諸改革が本格的にハード、ソフトの両面から進められたのは感慨深い。
 これからの大学は社会や学生に対し認知され、魅力ある大学にしなければ生き残り、発展することができない。それには絶えず自己点検・評価を行い、相互評価や第三者評価にも踏み込んでいき社会の評価に耐えうる大学にしなければならない。
 '99年には更に大学設置基準が改正され自己点検・評価は義務化され、その結果の公表が努力義務化された。とはいえ、大学の自己点検・評価は基本的には自律的努力によって行うべきものであることは言うまでもない。
 たえず大学の現状を点検・評価し、次の大学改革に向けた課題を整理し、可能なものから実行する方策を立てることは極めて重要なことである。したがって、これは多摩美術大学の絶えざる自己改革の原点であると思うのである.
 「多摩美術大学1997-98-99」では、本学の永年に亘る自己点検・評価による改善・充実が大きく実を結んだ時期であるが故に、新たな課題が強く意識された。最後に本書の刊行に当たり高橋史郎自己点検・評価部会長をはじめ委員の方々並びに関係部局の方々に多大なご尽力を頂いたことを深謝申し上げる。