多摩美術大学90周年記念誌|多摩美術大学
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─ 『多摩美術大学90年の歩み』刊行に寄せて創立時の歴史を振り返ると,有志や同志たちの高い志と熱情がその始まりにあったことがわかります.その「意力」があったからこそ,幾多の激動の時代を乗り越え,「自由」な気風を今に伝えることができたのだと思います. 戦禍が止まない現在の世界を見渡すと,本学がいつの時代も大切にしてきた「自由」がいかに貴重なものであるのかを痛感します.形はどうあれ,賛否はどうあれ,我が国は80年にわたって戦争に直接的には関わらないで時間を過ごしてきました.紆余曲折はあるにせよ,世界史上稀に見る自由な時代を生きてきたと言ってもよいかもしれません. 「自由」という言葉を堅苦しく捉えることはあえて避けたいと思います.この言葉を正確に語ろうとすると,本質を失って堅苦しくなります.本学に漂う温かい空気,明るさ,学生の生き生きした感じ,その結果現れる創造の豊かさ,それを表しているものが「自由」です.「自由」は目に見えない風のようなものであるべきです.言葉にならず正体不明だけれど,本学の教職員と学生が共有している貴重な気風のようなものであるべきでしょう. この先,どのような時代が待ち構えているにせよ,本学の伝統の根底にある「自由と意力」の精神は,しぶとく生き抜いていってほしいと願います.創立90周年を一つの節目に,改めて多くの方と本学が守り育ててきた類稀な校風を共に分かち合いたいと思います.ごあいさつ内藤 廣多摩美術大学 学長

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