多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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15資源の循環に留まらず、社会全体の価値をどう循環させていくか。このような問いは、現代社会が直面する重要なテーマである。齊藤さんのルーツは、多様な文化との出会いの中で形作られた。そこで培った視点が、社会と作り手の新たな関係性を模索する原動力となっている。地域住民や企業と協働した富士吉田や大崎町のプロジェクトは、価値の循環を実現する社会の仕組みとして注目すべきものだ。これらは、従来の環境保護活動の枠を越え、社会の新たな方向性を示すものになるだろう。アートとデザインがいかに社会に関与し、価値を生み出しつつそれを循環させられるか。作り手であろうとする人々が、自らの役割と可能性を見つめ直す機会になった。レクチャーのアーカイブ映像を、サーキュラー・オフィスのWebサイト(https://circularoffice.tamabi.ac.jp/)やYouTubeチャンネル「TUB Tama Art University(多摩美術大学 TUB)」で公開しています。ぜひご覧ください。ロジェクトを進めたのですが、日本の人口はある程度限られているため、少ないパイの奪い合いに加担してしまった側面もあります。都市部ではなく、近隣の自治体から移住してきた方も多かったので。 そんなとき大崎町の取り組みに出会い、「これを社会の価値として広げていければ、日本のみならず世界の課題解決につなげられるかも」と思いました。中村 冒頭で、外国からの視察も多いと仰っていましたが、反応の中で目立ったものはありましたか?齊藤 インドネシアでは、大崎町のリサイクルシステムの実証事業が始まっています。バリからスタートして、首都のジャカルタでも導入が始まりました。NGOと組んで、アフリカにおけるゴミ処理の解決に、大崎のシステムを導入できないかも検証中です。中村 期待が膨らみますね。人口爆発が起きている地域、もしくはこれから人口爆発が起きそうな地域に、そういう新しいシステムが構築されるのは一種の希望だと思います。齊藤 大崎町は、町を挙げて循環型社会の構築に挑戦したことで、国内外からもかなり注目されるようになりました。上場企業だけでも、年間数十社に視察に来ていただき、様々な連携を模索できる土壌が整いつつあります。 一方、環境に特化しすぎたことで、「地域の人たちの生活を邪魔しているのではないか」という不安が出てきました。僕らはSDGsの推進のようなことも併せてやっているんですが、それって外来的な発想で、地域が持っていた固有のものを駆逐してしまっているんじゃないかと。地域住民としても、環境のことばかり議論している人たちが来るのは、受け入れがたいものがあるでしょうし。 サーキュラーやSDGsなどの価値観が、覆せないようなもののようにして迫ってくるのは、ある種の暴力だと感じるようになってきました。 今はみんなが「環境破壊を止めなくちゃ」と、一直線になっている状況。そういった人たちに対して、社会の中で適切なロールを手渡せるようなデザインも必要だと、最近は強く感じています。循環する価値、アートとデザインのこれから──足達真帆(情報デザイン学科情報デザインコース4年)・中村寛(齊藤)外来的な発想で、地域が持っていた固有のものを駆逐してしまっているんじゃないか

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