多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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18違和感なく溶け込んで合意形成されていました。地域住民に伴走してプロジェクトを進める方だな、と思ったことを覚えています。岩浅 先ほど、「トキの野生復帰プロジェクトでは社会環境の整備も重要だった」と話しましたが、そこにはまさに地域の合意形成も含まれています。 豊田さんと一緒に島内の50ヶ所ほどの集落を巡って座談会形式のワークショップを行いました。すると、地域でお世話になった方に、「ワークショップなんて、よく分からないから駄目」と指摘されて「移動談議所」としました。さらに、「トキの野生復帰を成功させるための合意形成」という入り方だったため、「トキのことばかり言うな」とも言われて(笑)。「トキをきっかけに、いかに地域を良くしていくかを議論しよう」と問題を再設定したことで、議論がかなり進みました。一番の売りは、公園から見える瀬戸内海の「多島海景観」。しかし、そもそも木々が生い茂っていて見えないとか、施設が老朽化していて楽しめないとか、色々な問題がありました。そこで、「視点場って何なのかな」と改めて考えたんです。そこから展望地のリフレッシュ事業をやることになり、伐採できる箇所をことごとく伐採していきました。当時の新聞の見出しは、「環境省が伐採」(笑)。 とはいえ、伐採自体は悪いことじゃないんです。そもそも瀬戸内海国立公園は「里山林」として、持続可能な資源循環を行っていた場所。高度経済成長に入って「伐ってはいけない」という行政からの指導が入り、現在の状態になってしまった。なのでそこを解きほぐしたかったんです。中村 岩浅さんから見て、日本の森林はどういった状態にあるんでしょうか?岩浅 大きな特徴は2つ。1つは、「人工林の割合が高く、管理が行き届いていない」。日本は国土の7割が森林と言われていますが、自然林は2割以下。戦後の拡大造林で、自然の木が生えないような標高が高い場所や、林道がないようなところにまで植林してしまい、管理が行き届かなくなってしまった。 もう1つは、先ほどもお話した「里山林」。かつては住民のための薪や炭などを生み出していた森林がプロパンガスの普及などにより使われなくなり放棄され、暗い森になってしまった。 全体として材の蓄積は上がっているわけですが、「生物多様性」という観点から見ると、質が良くない地域の文化や知恵を活かした仕組み作り中村 この間、岩浅さんと鹿児島県鹿屋市の公園を散歩したのですが、岩浅さんは私と全く違う視点で公園を見ていたんですよね。例えば、「景観を作る・守る」という発想で公園を組み立てる場合、どんな植物が必要で、どんな植物が不要なのか。岩浅さんが、普段何を考えて公園を歩いているかが気になりました。岩浅 2004年に、日本で最初の国立公園である「瀬戸内海国立公園」に配属されたんです。この公園の(中村)最近、『保護』という観点が『再生』に変わってきましたが、2つは大きく異なっていますよね

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