19「⽇本の森林はどういった状態にある?」と尋ねると、「大きな特徴は2つ。1つは人工林の割合が高く、管理が行き届いていない。もう1つは里山林の管理不足」と答える岩浅さん。論を行いました。例えば、インドネシアのスマトラ島沖地震では、マングローブが保全されていた場所は津波の被害が少なかったそうです。マングローブが津波を軽減し、瓦礫を押しとどめる壁の役割を果たしたんですね。一方、エビの養殖場のためにマングローブを伐採していた場所は被害が大きくて、陸上の建物がなくなってしまった。まさに「荒ぶる自然」ですよね。森林も増えているのが実情です。中村 最近、「保護」という観点が「再生」という観点に変わってきましたが、この2つは大きく異なっていますよね。岩浅 国土交通省に出向していたとき、国土形成計画の改定を行っていて、「環境」を担当しました。計画には保護、保全、再生の3つが書かれていたので、私はそこに「活用」を加えました。 一般的に「保護」といえば、「手を付けてはいけない」という認識があると思いますが、「保全」には持続可能な利用も含まれるわけです。「再生」は、劣化したところや損なわれた生態系を戻していく。「活用」には観光やグリーンインフラなども含まれています。これらをひとまとめにしたのが、今の国際目標で「ネイチャーポジティブ」という言葉です。今は生物多様性の損失が続いている状態なので、まずこの損失を止め、回復していく必要がある。環境省は「自然再興」という言い方をしていますね。中村 「自然再興」では、専門家集団が有する学術的な知識と、地域住民の枠組み・仕組み作りを組み合わせていくべきだと思うんですけれども。岩浅 よく出てくるのは、里山の伝統的な知識・知恵を表す「トラディショナルナレッジ」という言葉。生態学的・生物学的なアプローチに加えて、地域のコミュニティで培われてきた文化や知恵をセットにしたアプローチが必要だと思っています。中村 民俗学者の宮本常一の言葉に、興味深いものが2つあって。1つは「人の手の入ってない自然は非常に寂しい。一方で、人の手の入った自然はすごく温かみがある」という景観論。もう1つは「日本人は自然と共生してきたという通説があるが、それは大間違いだ」という指摘です。彼は高度成長期から日本の流れをずっと観察してきた人です。日本人が禿げ山になるほど伐採する様子を見て驚いたそうです。それで「日本人が自然に優しいとか、そんなことはない」と書いているんですね。岩浅 以前は自然環境行政にも、「自然は弱いので守ってあげよう」という考え方がありました。それが3.11で自然の脅威をまざまざと見せつけられて、「自然には恵みと脅威の両面性がある」と分かった。それまでは、「恵み」の方を言い過ぎていたんです。 そこで、復興プランの一環として「自然を活用することで、防災減災につなげられないか」と言う議中村 大崎町の齊藤さんと盛り上がった話題の中に、「サーキュラーという名前にちょっとした違和感を覚える」というのがあって。SDGsにしろ、これらの概念は主に欧米から持ち込まれたものですよね。ある程度成長が終わった経済大国がスタンダードをさんざん汚した後に環境設定をして、みんながそこで競争する。「ナレッジを持っている人が持ってない人に向けて、『従いなさい』と言うこと自体が暴力的である」と。岩浅さんの目に、サーキュラーという概念はどう映りますか。岩浅 なかなか難しい、大きな問いですね。私も欧米発の「グリーンインフラ」をそのまま日本に持ち込むのは違うと考え、仲間たちと研究会で日本におけるグリーンインフラとは何かといったことを議論しました。日本各地の遺構を巡り、風土に根ざした方法を調べたりもしました。 あとは意思決定の話。宮本常一の『忘れられた日いかに自分事にしてもらうか
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