多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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20知と連携の拠点、大正大学地域構想研究所。岩浅さんが地域創生で重視する「自然文化とコミュニティ」「経済と社会と環境など」がバランスよく統合されているとして、酒蔵に着目。本人』には、私達の先祖がいかにして物事を決めていたかが書かれていますよね。神社で車座になり三日三晩話し合って案を作り、その結果を紙にしたためて神様に奉納する。地域で熟議を重ねることで、当事者意識を醸成するのが大切なのかなと。 私はずっと環境問題に取り組んできましたが、やはりみんな会議では「良いね」と言うんですよ。でも、実際に行動するまでは大きな隔たりがある。なので「いかに当事者意識を持ってもらえる政策にするか」に腐心します。中村 民主主義を「対等な人間関係を構築して、合意形成する」と定義した場合、これはまさに日本土着の民主主義のあり方ですね。岩浅 豊田さんと一緒に佐渡で移動談議所をしたとき、「これはひょっとしたら、新しい民主主義がここから生まれるかもしれないぞ」って思ったんですよ。最初は、とにかく市役所の悪口ばかりだったんですよね。でもずっと悪口を言っていると、みんな疲れてきちゃって。「だったらどうする?」という提案型に変わっていく。 それから、みんなで一緒に現場を散歩しました。川沿いを歩きながら、「昔はもっといっぱい生きものがいたよね」と思い出話を共有したり。するとおじいちゃんやおばあちゃんが、「そういうのをもう一度再生させたいよね」と言ってくれたりして。 自然再生事業では、コンサル系の専門家が最初にぱーっと線を引いちゃうケースが多いんですけれども、今回は技術的な視点抜きで、「こんな風に自然再生できたらいいよね」という理想をみんなで語ってもらった。それをコンサルの人に、「これは技術的に可能です」とか「技術的に難しいです」とかジャッジしてもらい、みんなで作っていったという経緯がありました。まさに地域が主役の自然資本の再生です。地域のことを、誰がどのように決めていく?中村 「地域のことを誰がどのように決めるのか」がまさに次のテーマですね。「佐渡島プロジェクト」の話もできたらいいなと。岩浅 佐渡はずっと自然共生をやってきてるわけですけれども、「新しい政策デザインをどのようにみんなで考えて、実行していくのか」という実験場でもあります。東京の企業がそれぞれのプラットフォームを佐渡に作ろうとすると、地域には負担が掛かるわけです。そこをゆるやかに統合して、グリーン化とデジタル化をセットで推進していこう、という流れです。中村 私も自分の会社を立ち上げたタイミングで、富士通デザインセンターと共に佐渡島プロジェクトに関わるようになりました。社会課題を表面的に扱っている企業も多いですが、人類学者が関わることで、その奥にある本当の課題を見つけたいと思ったんです。 一番良くないのは、「外から来た人間が勝手に課題を作って、勝手に解決して、金儲けして帰る」という形。これを乗り越えて、「どのように課題発掘できるか」を探ることが最初のフェーズでした。 企業は利益を産んでいく必要がありますが、もっと長い目で見ると、その地域が活性化していかないと意味がないですよね。アカデミアの人間は、企業が目先の利益だけを追求していると忘れがちなところを、調整したりファシリテートしたりする形で関わっていくのが良いのかな。岩浅 私が地域に入る際に重視していることが2つあります。1つは、「種火」。地域の人たちの中に「これをやりたいんだ」という地域発の種火がない場所には、入らないようにしている。それがないと続かない。2つ目は「具体事例」。小さくてもいいので、自分たちの概念を具現化した事例を作って、地域住民に見せる。彼らは「概念的には理解はできるけれ

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