多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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21私たちの社会は自然を「資源」と見なすことで発展し、現代の快適な暮らしを手に入れるための土台としてきた。サーキュラーや環境保護などの取り組みは、現代までのその潮流を逆方向に泳ぐようで、バランスも両立も継続が難しく思える。その中で、人の生活と自然との両者に、政策を通じてアプローチしてきた岩浅さんの言葉は、深い示唆を与えてくれる。自然再生のために、政策が果たす役割は大きい。人々の生存の基盤であるコミュニティを起点に、私たちの暮らしと自然の関係をどう結び直していくか。ヒントはすでに存在しており、色合いの違うこれらの試みを、どのように連鎖させながら広げ、深めていけるか。ここにもまた、政策が生きてくるだろう。レクチャーのアーカイブ映像を、サーキュラー・オフィスのWebサイト(https://circularoffice.tamabi.ac.jp/)やYouTubeチャンネル「TUB Tama Art University(多摩美術大学 TUB)」で公開しています。ぜひご覧ください。ども、本当はどうなの?」というのをかなり冷静に見ているので具体事例はとても説得力がある。中村 「お金の流れを作る」のも1つのサーキュラーじゃないかな。私のような人間は、商業主義を批判的に見てしまうところがあるけれども、お金について考えないのもそれはそれで問題。地域の「適正なビジネスの循環」的なものって、どうやって仕組み作りしたり調整したりすれば良いんでしょうか。岩浅 私は「酒蔵」に注目しています。酒蔵って究極のサステナブル企業なんですよ。お酒を作るには豊かな水が必要なので、そのために森を守っている酒蔵もいます。最初の目的こそ酒づくりというビジネスだったけれども、結果として森を守る生物多様性の保全につながっている。 生物多様性という言葉は、「生物的(biological)」と「多様性(diversity)」を組み合わせたもので、いわゆる自然科学から入ってきた概念。それが私はどことなく腑に落ちなくて。「食」や「暮らし」といった現場からのアプローチが非常に重要なんじゃないかなと、最近は思っています。中村 「体感できる」のが重要ですね。岩浅 最近知ったスウェーデンの事例に、面白いものがありました。スウェーデンの幼稚園は、缶やバナナの皮、バイオマスのプラスチックゴミなどを棒に全て固定して、半年ぐらい土に埋めるそうです。それを半年後に取り出して「これはサーキュラーで、これはサーキュラーじゃない」と、子供たちに説明するらしい。こういう風に、体感できる教育が進めばもっと理解度も上がるんじゃないかなと思っています。 また、スウェーデンでは、町のコンポスト的なところにバナナの皮など生ゴミをぽいぽい放り込めるらしいですよ。面倒くさい設計だと、誰もやってくれない。そこを徹底的に分析して、「思わずやってしまう」デザインにしたと聞きました。簡単に取り組めるのはいいですね。中村 「意識してやらない」ための仕組みづくりは、デザインとアートの力で解決できそうですね。人の暮らしから自然再生を考える──小山田詩乃(生産デザイン学科プロダクトデザイン専攻卒業生)・中村寛(岩浅)地域の人たちの中に『これをやりたいんだ』という種火がない場所には、入らない

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