多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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31農作業を終えて、小野さんが仲間やその家族と、畑で獲った野菜をつまみに乾杯している様子。何を大事にしているかと言うと、「自分が愛する何かだと思うんですよね」と小野さん。 本当は次の世代の人たちに、こういう生き方、こういう社会の構築の方法、こうすればより持続性が高まるより収奪性が低くなるっていうのを考えてもらいたいと思います。持続可能性に寄与することだけが、良き生き方ではないと思うわけなんですよね。大橋 産業に関わるデザインは、元をたどれば、同じ品質で、同じ規格で、同じ形のものを大量に生産してきました。ネジが発明されて、このネジに規格ができて、そうすると何かが壊れても別なところで直せるという発想がデザインの大元にあるんです。 そうなってくるとプロダクトデザインって何にも作らなくなればいいのかなと、30年ぐらい前に悩んだことがあるんですよね。デザインって、ずっと何をやってもゴミを作っているんじゃないか。小野 これだけ人類がたくさんいて、それぞれが幸せに、つまり飢えないとか、そういう社会を実現させようとすると、みんななるべく狭い空間で生活できるように、規格化してった方がより効率的だと。言ってしまえば、家畜の話ですよね。これだけのスペースしかないんだけど、「鶏を何羽飼える?」と言うと、この面積でこの規格でやって、同じように育つように同じエサを機械でやるという。それって実は、より多くの人を食わせるための技術でもあるんですよね。すごく非人間的で、動物福祉に反するようなことも言われているようですが、より多くの命を生かすための仕組みでもあります。 より多くの命を生かすと、さらにそれが増えて、その居場所を作るためにさらに増築しなければいけ これをやれば、環境負荷が低くなるとか、そういうことを言いたいわけじゃないんです。ただ、こういうことを多くの方々に体験していただく。子供たちに対しては少なくともこういう経験を持って、大人になって、自分で判断して社会を作っていってもらいたいという思いがあるんですよね。大橋 先ほどのお話は、食料供給の観点でしたが、小野さんの農園で体験していることは、食べるものはここにはあるんだけれども、食料供給のためではなくて、その他の機能があるっていうことですかね。小野 エネルギーや食料は、根本まで立ち返っていくと、どこまでいっても殺伐とした何かが広がるばかりで、じゃあ何に喜びを見出すのかというと、もう開き直りですよ。この写真は、農作業の終わりに仲間とその家族と畑で獲った野菜をつまみに乾杯しているというものです。我々は何が大事かというと、自分が大事だし、自分の家族だったり、動物だったり、自分が愛する何かだと思うんですよね。 さまざまなサイズのコミュニティをつくりながら、その中でいい生き方をしたいと思うのは自分の根幹の何か欲望としてあるもので、やっぱり人はただおいしいものを食べたいがために生きてるわけではないということですよね。どこかに利他的な、人に対して良い存在でありたいっていうものがある。SDGsという言葉にも、やっぱりそこが含まれてると思うんですよ。大橋 自分以外の誰かのことを考えるという話がありましたが、小野さんのところに行けない人たちは、今のお話をどんなふうに実践していったらいいでしょうか?小野 僕も、どうすればいいんだろうっていつも思っているんですよ。年間、7000人ほどの方々がいらっしゃっているので、いろんな方にシェアできるような環境を整えようとしています。最近では都心でもビルの屋上で農園をやったり、農的な取り組みが注目されていますが、別に農園をやることや、野菜をつくることだけが良き生き方の伝家の宝刀ではないと思うんですよね。僕は僕ができる範囲で何かやろうと思ったら、こういうことになったということなので。今、何をするべきか

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