多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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35サーキュラー・オフィスについて、「根幹にあるのは『クリエイティビティをどう再定義できるのか』」と中村教授。中心には、『LIFE CENTERED CREATIVITY』がある。している一方で、アート×サーキュラーは難しいところがありました。この学科を作る際に、様々なアーティストと話をしたのですが、大抵「アートとサーキュラーは対極の位置にあるのではないか」というところからスタートします。 とはいえアートは、これまでもずっと「社会の前提にないものを提出する」ということを続けてきたと思うんですよね。社会に対するある種の異議申し立てであったり、何らかの「叫び」の表現であったり。こういったものを取り扱うことがアートの強みだとするならば、サーキュラーとの関わりでその点を改めて論じることで、新しい回路が生まれてくるかもしれません。 2024年度の後半から25年度は、「Vernacular Circularity」という概念を立てて、「土着のサーキュラーのかたち“を”探る」と、「土着のサーキュラーのかたち“とともに”探る」というテーマを探究する予定です。「とともに」としたのは、ただ土着のサーキュラーを探究するだけではなく、「ともに、何かを探ってかたちにしていく」のが大切だと思ったから。その後は、こうした活動で培った思想を「編む」ところまで踏み込んでいきたいと考えています。 最後に、サーキュラー・オフィスの今後を象徴する3つのキーワードを紹介します。1つは、「惑星社会のなかに多元世界をともにつくる」。「惑星社会」は、イタリアの社会学者、アルベルト・メルッチの言葉で、「多元世界」は人類学者のアルトゥーロ・エスコバルの言葉です。 2つ目は、「再生的で、あそびのあるアプローチ」。 20世紀の人文科学にはアンチ商業主義的な側面があり、こうした取り組みに協賛をつけるのを嫌がる傾向が見られましたが、ここでは様々な企業に入っていただき研究を進めたいと思います。入口の部分では、インターネット広告事業を手掛けるセプテーニに助けていただきました。 今後は、ネットワーキングの機会も増やしていくつもりです。本日共催という形で入っていただいてるリ・パブリック。そして、ZEBRAS AND COMPANYにも大変お世話になりました。 サーキュラー・オフィスがキックオフしたタイミングで、多摩美の学生たちが、「多摩美リサイクルプロジェクト」という有志団体を立ち上げたのも驚きでした。多摩美リサイクルプロジェクトは、大学内の制作で発生した廃材や中古品を回収し、それを必要とする人に受け渡すという活動を行っています。 学科別のカリキュラムを持つ大学には、「横の交流が起こりにくい」という欠点があります。特定の分野を集中して学ぶには適していますが、例えば「順序立てて体系的に学ぶこと」が苦手な学生にとっては学びの機会を奪っているという側面もありました。 これらを解決するために、いくつかの方法があります。美術以外の一般教養を学ぶことができる「リベラルアーツセンター」のような場所を作り、そこから横串を刺していくという方法もあります。 多摩美には、これまでネイチャーやサーキュラーを学べる場所がありませんでした。そのため、まずはそこを整備していくという立て付けにして、その中心に美学や哲学といった人文系の学問を仮説的に置いています。こういったところから、学生の領域横断を手助けしていくつもりです。 現在はアートとデザインの2分野に分けていますが、いずれはいくつかの専門領域の学科から縦串を刺し、それを崩していくようなこともやりたいです。すべてを横につなげるのは不可能だとしても、個人単位で見たときに「人が勝手にあぶれ出て、様々なことを始める」といった制度設計はできるかもしれない。そんなことを考えています。“土着のサーキュラー”のかたちをとともに探る中村 デザイン×サーキュラーはすでに社会に浸透

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