多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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みぐ崎ま内川摩36サーキュラー・オフィスの今後を象徴する3つのキーワードの1つは、「惑星社会のなかに多元世界をともにつくる。コ・デザインのプロセスが見えてきている」と中村教授。サーキュラーエコノミーに取り組む際は、何らかの数値目標を立てて、最短で到達しようとしがちです。しかし、真面目にやればやるほど「遊び」がなくなってしまい、本来やらなくてもいいことまでやる必要が出てきてしまう。こういった課題を、多くの場所で見聞きしました。「いかに遊び心を忘れずに取り組んでいくか」が今後の課題になると思います。 3つ目は「デザイン人類学を起点に創造性をコ・リデザインする」。「デザインというのは、必然的につねにコ・リデザインである」という言い方でアプローチできないだろうかと考えているところです。さつせんだい都市」に転換していこうと、市民の方と協働して決めました。その実装のひとつが、原発の裏にある久見を拠点にした「Satsuma Future Commons(薩摩フューチャーコモンズ)」です。衣食住を切り口に、「多様な市民が協働しながら、新しいライフスタイルを生み出す」市民参画型のラボを構想しました。 「そもそも、サーキュラー都市というのは、資源が循環する都市なのだろうか」を考えていきたいと思います。 私たちは2019年に『MOMENT』というトランスローカルマガジンを発刊しました。創刊号の特集は「エイブルシティ」。バルセロナやアムステルダム、奈良や熊本を巡りながら「人の可能性をひらく都市」のあり方を考えていきました。 当時は、Googleの姉妹会社であるサイドウォーク・ラボがトロントのウォーターフロント地区に「スマートシティ」を立ち上げるということで、それが世の中のビッグムーブメントになっていました。エイブルシティは、スマートシティの批判として発案しています。 スマートシティを一言で表すなら、「安心・便利・快適なまち」。しかしこれは、環境(テクノロジー)が「安心・便利・快適」を保証してくれるという話なので、「人間がスポイルされている」という脅迫観念じみたものを感じてしまうコンセプトでもあるわけです。そこでエイブルシティは、「人の可能性を開くまち」として、「環境(テクノロジー)が人の可能性を広げる手助けをしてくれる」といったイメージで捉えることにしました。住民達が「どういう町を作っていきたいか」を考え、その答えをミドルアウトで実装していくことが重要なのかなと思っています。 エイブルシティを紐解いていくと、今の社会は生産と消費の関係が限界に達していると言わざるを得ません。例えば、SDGsの進捗状況は、現在約15%。あと6年間で、残り約85%を達成する必要があるのですが、それは無理な感じがします。そもそも、「ゴールを決めて達成する」ということが、本当にサステナブルな活動なのか。僕は、そこから見直していく必要があるとも思うんですよね。 僕らは戦後の暮らしの中で、「良い商品を適切な価格で市場に供給すること」を善としてきましたが、それが社会的な断絶や分断、地球温暖化を引き起こしているという現実もありました。「事業者と顧客がさき薩摩川内を舞台に、サーキュラー都市を作る田村 リ・パブリックという会社で、国や地方自治体、企業や大学と連携しつつ、イノベーションをめぐる多様な取り組みを行っています。今回は、鹿児島県の北西にある薩市のプロジェクトを中心に、循環を切り口にした都市のデザインについてお話します。 薩摩川内は、九州に2箇所しかない原子力発電所の1つがある町です。僕がこの町に関わり始めたのは2018年で、当時、世の中には反原発の流れがありました。薩摩川内も、「このまま原発に頼った町作りをしていて良いのか」と自分たちの町のあり方を考え直す雰囲気が充満していました。 そこで薩摩川内の未来ビジョンを「循環経済産業

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