多摩美術大学|サーキュラー・オフィス 2023 年度 活動報告書
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38⽇本と台湾のデザイナー、リサーチャー約15人で、福岡県八女市や長崎県雲仙市小浜を巡ったフィールドワークについて語るリ・パブリックの神尾さん。付いたトレイには触りたくない」など、こういった感情を組み込んだことで、既存の循環経済のリサーチと差別化できたと思います。また、「人生の中で、環境意識が最も芽生えたタイミングはどこだったか?」と質問し、「感情をライフジャーニーマップにプロットする」ようなことも行いました。 記録してみると、実は日本よりも台湾の方が食品ゴミの量が多いという意外な結果になりました。リサイクル自体はものすごく進んでいるんですけどね。 フィールドワークとプロトタイピングでは、「『循環するということ』をデザインしなおそう」という大きなテーマを立てて、日本と台湾のデザイナー、リサーチャー約15人で、福岡の八女、長崎の雲仙市、小浜を舞台にしたフィールドワークツアーをしました。八女は工芸が盛んな地域です。みなさんもご存知の通り、工芸はサステナブルなものづくりを前提にしています。それが、サーキュラーデザインにインスピレーションを与えてくれると考えました。 小浜は、食文化が豊かな地域です。温泉の蒸気を使った地獄蒸しなど、地域の資源を活用した食を提供しています。そんな場所で、「そもそもパッケージが最低限で済む暮らしのあり方とは、どのようなものか?」ということを考えていきました。その後、全員で大学に戻り、プロトタイピングの機会を設けました。 例えば、セラミック3Dプリンターを使ったプロトタイピングでは、「葉物野菜を長持ちさせる保湿性がある陶器」というプロトタイプが生まれました。今後の地域生産について考えながら、地域に根ざしたパッケージを提案しています。 また、「UXの視点からサーキュラーを捉え直す」というプロトタイピングもあり、様々なおもしろい提案が生まれました。デザイナーならライフサイクル思考を採用する必要がある 私はREnato labのCEOを務めております。当社は台北に拠点を置く循環型経済のコンサルティング会社です。大学では経営学を専攻し、その後フランスに渡り、文化芸術分野で働きながら美術史を学び、実務経験を積みました。台湾に戻ってからは、建築・芸術財団で勤務していました。 2016年にサステナビリティの分野にキャリアを転換し、2022年にREnato labのCEOに就任しました。当社のチームは主に環境工学のバックグラウンドを持つメンバーで構成され、ビジネス、生物学、化学などの専門家も在籍しており、循環型経済を通じて企業の脱炭素化を支援しています。様々な業界とパートナーシップを結び、特に芸術やデザイン分野の企業との密接な協力関係を維持しています。 2050年は世界がカーボンニュートラルの実現を約束した年です。考えたことはありますか? 2050年、あなたは何歳になっていますか? どこに住んでいますか? そして現在、カーボンニュートラルについてどれくらい理解していますか? その定義は? どうやって実現するのか? 誰が何をしているのか? 若い世代として、2050年までにこれらの責任はみなさんの肩にかかってきます。 2050年には私は70歳になります。もし気候災害が現実となれば、私の生存率は低いでしょう。気候災害が現実とならないよう、私たちの会社の経験を共有し、みなさんに何らかのインスピレーションを与えられればと思います。 当社の成長の道のりには多くの変化がありました。2014年、私たちは廃棄物を新製品に変えて販売すれば利益が出ると単純に考えていましたが、このビジネスモデルは市場では成り立ちませんでした。2017年になると、民間企業向けのサービスを開始し、循環型経済を通じてカーボンニュートラルの実現を支援するようになりました。現在は、その経験を方法論やツールとして体系化し、より多くの人々と共有することで、循環型経済が世界中で花開

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