そこにかえる

花岡 梓

担当教員によるコメント

そことはふるさと。父が住み、母代わりだった祖母が眠る港町。いつも祖母が開けていた雨戸を今は父が開ける。作者も開けてみる。語られるのはそれだけ。あとは四季折々の島の生活を独り言のように重ねていく8ミリの画面と姉に電話で話しかける作者の声。大上段にふるさとや死について語るのではなく、つぶやきの中にそれらが感じられる私映画が普遍的な大きさで見えてくる。だが、作者が実際にふるさとに帰る映画ではない。繊細な画面の連続はふるさとに対する想いで溢れてはいるが、心にふるさとをいっぱいに詰めていくという決意の表れだろう。冒頭とラストに雪が降るシーンがある。映画中で最もそして唯一センチメンタルな表現だが、それは旅立ちの決意でもある。

教授・ほしの あきら