宮沢賢治『銀河鉄道の夜』考, ―「鳥捕り」に見る平凡であることの特殊性―

福村 萌

作者によるコメント

宮沢賢治は37年という短い生涯の中で、数多くの名作を生み出してきた。その中でも『銀河鉄道の夜』は賢治の代表的な童話作品の一つである。この物語は、主人公のジョバンニが銀河鉄道に乗って幻想の銀河を旅し、そこで出会うさまざまな人々との交流を通して、「ほんたうの幸」とは何かを考える物語である。「鳥捕り」は、汽車の乗客の中で唯一「殺生」を行う者として描かれ、作品の中で「平凡」であるが故に異彩を放つ存在である。この論文では「鳥捕り」に焦点をあて、平凡であることの特殊性を考察する。

担当教員によるコメント

宮沢賢治の童話の中で、もっともよく知られていると同時にもっとも複雑な構造をもつ『銀河鉄道の夜』は、実におびただしい批評や解釈を呼び寄せてきた。この論考の特徴は、そんな作品の登場人物たちのうち、非常に地味な一脇役にすぎない「鳥捕り」に、終始、焦点をあてたことである。その手続きは丁寧で、地味な存在のもつ曖昧さに対して目を凝らすという作業をしている。結果、賢治の思想の根幹にとどくひとつの筋道の発見をもたらした。そもそも、この脇役に自然に魅惑されたところから発想されているため、論述は堅実で、自分が納得するところまでいこうとする謙虚さにおいて、初学の文学的研究論文のひとつのお手本となりえている。

教授・平出 隆

  • 作品名
    宮沢賢治『銀河鉄道の夜』考, ―「鳥捕り」に見る平凡であることの特殊性―
  • 作家名
    福村 萌
  • 学科・専攻・コース