漸化

平舩 瑞生

担当教員によるコメント

彼女は効率のために平準化された世界、時間までもが均質に流れてゆく社会にあって、無為に空を眺め、海岸を歩き、その直中にいることでの慰安を口にしている。しかしここで注視したいのは、彼女が明けから暮れへの空色の変化、波が湿らす砂が見せる律動など自然の事象を形象として感応している点である。もちろん何人も自然現象が生む痕跡を十全に再現することなど不可能なことである。しかし彼女は果敢にも自然のリズムを幾度となく陶土の表情、釉薬での効果などを繊細な視線で選び取り、造型し形として表そうとしてきた。ついに自然と人為のあわいのような形象化に成功している。それは見る者を瞬時に光の世界へと移動させる隠喩、優れた虚構性を持っている仕事である。

教授・井上 雅之