滲み棚

板垣 勇太

作者によるコメント

日本人の伝統的な考え方や感性はとても繊細で魅力的である。余韻や余白にこそ美を見出し、 夕焼けに匂いを感じ、17 音で世界を表現する。ぼかし、淡し、崩しや霧、霞、靄のように、すべてが見通せない湿潤な空気に、物思わせる美の余韻を見いだした。便利な物で満たされ、物が増え続けていくこの世の中であえて物を飾ることに特化し、物の背景となり、空間に滲みだすような棚を考えた。

担当教員によるコメント

抽象的な「拠り所」を表現した家具作品。床の間に飾る、掛け軸や生け花といった伝統的な季節のしつらえとは違う“個人的な趣味趣向をその時々で飾る場所”といったことから着想された。タイトルにある「滲み」とは、空間の中で輪郭がぼやけることをイメージしている。10mm角の木材を格子状に組んでいるが、縦横配列に粗密を出すことで、棚自体が曖昧な存在になっている。黒く塗装されたことによって格子内部の影が吸収され、角度によっては平面的にみえる。構成の特徴である奥行き感、立体感が希薄になっているのも興味深い発見であった。作者はこの作品を通して、心の拠り所をデザインしたのであろう。この作品をミラノサローネに出品していたが、今後の活動も楽しみである。

准教授・米谷 ひろし