空の記録法

岩田 佳子

作者によるコメント

毎朝8時半に撮影した南東の空の写真を3×3ピクセルの画像に変換し、1ピクセルごとにRGBの値を計測します。そのようにして求めた9つのRGBの値の平均をその日の空の青色とし、頭部・胸部・腹部を含む胴体部分(触角を除く)にR(Red)、後翅にG(Green)、前翅にB(Blue)の情報をもたせた蝶を365匹描きました。それらをカレンダーのように月ごとに並べた12の標本箱の作品です。すべての蝶は同じようでいて、少しずつちがいます。

担当教員によるコメント

同じように毎日繰り返されるのに、少しずつ違っているものがある。たとえば毎朝淹れる紅茶の味や、そのときに聞こえてくる鳥のさえずり。岩田は、毎朝、部屋の窓から見える空の色が違っていることに気がついた。そして、そのわずかな違いを確かめるようにして写真を撮り始めた。撮りためた写真には毎日の空が写っているが、岩田が感じたわずかな差異をあらわすものではなかった。わずかな差異の記録法は、空色のカレンダーや三角のチップなど、さまざまな試作を経て、蝶のかたちになった。蝶の羽のかたちが微妙な空の色のちがいによってわずかに変化する仕組みだ。すべての蝶を手で描いた。同じように描こうとしても、わずかに違う蝶になる。羽の裏に空の色を塗った。空の色は展示台の白を青く照らした。そうして毎日の空を記録した蝶が誕生した。同時につくった毎日の空色で印刷した書物、バタイユの『青空』も秀逸である。

教授・永原 康史