卒業制作優秀作品集2017
芸術学科

畠田 佐帆

三島由紀夫『豊饒の海』で描いた「聖と俗」そして「くり返す」こと

三島由紀夫には、実際の事件や他作家の作品を自身の小説内に取り込むという「くり返し」の中で、その「聖性を俗へと転換する」作品制作傾向がある。三島由紀夫の『禁色』とトーマス・マンの『ヴェニスに死す』を比較することで見えてきたこの三島の作家性を、本稿では『豊饒の海』という作品に当てはめて、考察していく。その中で、彼がこの遺作に込めた意図や思いについて、政治評論『文化防衛論』なども用いて迫っていく。

担当教員によるコメント

畠田佐帆さんの卒業論文は、タイトルの通りに、三島の遺作となった『豊饒の海』四部作を精緻に、なおかつ大胆に読み解いた優れた論考である。まず冒頭で、三島が終生敬愛したトーマス・マンの『ヴェニスに死す』と『禁色』を比較し、三島は、つねに典拠をもとにして聖なる物語を俗なる物語としてくり返すという注目すべき見解が述べられる。そうした三島の方法が集大成されたものが、「輪廻転生」を主題とした『豊饒の海』四部作であるとする。そこでは聖と俗が、清浄と汚穢が、若さと老いが、対立し合いつつも円環を描くようにくり返され、一つに融け合っている。三島論としても大変鋭いものであるが、それ以上に、文学的な表現とは一体何なのか、そうした根源的な問いを提起している。

准教授・安藤 礼二

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