古代女神崇拝とドラム, ―歴史に埋もれた「女性ドラマー」の発掘―

原田 奈緒

作者によるコメント

ドラム(太鼓)は、現代では男性主体の楽器になっているが、もとは地中海周辺の古代女神崇拝社会において、女性神官や巫女など宗教的に力を持つ女性が儀式などで使うものであった。本論ではまず、古代女神崇拝におけるドラムの特徴的な役割と意義を、女神にまつわる様々なシンボルに隠された深い意味と絡めながら示す。その上で、古代と現代との対比から見えてくるドラムの新たな可能性を、演奏者としての自分の考えと共に論証していく。

担当教員によるコメント

近現代の西洋中心文化圏では、力任せの「男性的楽器」と思われてきた「ドラム/太鼓」。その起源を古代のオリエントやアフリカ文明に遡って考察し、宗教芸術史の観点から、ドラムが共同体の「生の全体性」を維持し救済する「女神が司った祈りの楽器」であったことを探究した。特に古代シュメール、アナトリア、ギリシャなどに伝わる女神「キュベレ-」が携える「タール」と呼ばれるシンプルな「ふるい型」のフレーム・ドラムに注目し、その音声的特色と美術考古の図像学からの検証を綿密におこなった。とりわけ先行研究の英文原著(レイン・レドモンド『女性がドラマーだった頃』L.Redmond; When The Drummers Were Women, 1997)の全訳に挑み、これを道標として、太鼓の聖なるシンボリズムに「生の全体性」の回復を解読した結論部は高く評価できる。

教授・鶴岡 真弓