Cheap Learning

松尾 拓実

作者によるコメント

AIを搭載した棒人間が様々な障害にぶつかりながら、ゴールを目指していく作品。ゴールにたどり着けず無限に死に続ける様を延々と流し続けることで、何も学ばない人工知能を表現した。近年、人工知能は目覚ましい発展を遂げている。特に、ビッグデータを扱ったディープラーニングは、一部で人間の発想力をも凌駕する程である。今回、私が制作したAIはその正反対を行う。「何も学ばないことも一つの学習」という、知能は無いがどことなく知性を感じるコンセプトを設けることにした。タイトルの「Cheap Learning」とは、「Deep Learning」の対義語の意味合いを持つ造語である。何も学んでいない事実を知ることは、ソクラテスが唱えた無知の知があるように、真の知に至る上で出発点となるはずである。

担当教員によるコメント

棒人間は、松尾くんにとっての創作の原点だという。その棒人間が知能を持つとしたら、どんな知能なのか。ゲームをテーマに作品制作を続けきた彼が最後に到達したのが、ゲームの中で多用されている人工知能だった。人間にとって、忘れることは、覚えること以上に大切な時がある。何も忘れることができない人間は、手塚治虫「火の鳥(未来編)」のマサトのように、気が狂ってしまうに違いない。棒人間の知能は逆に何も覚えない。常にフレッシュな気持ちで目の前の事態に対処する。「人間は、毎日生まれ変わる」といったのはジャン・コクトーだが、この棒人間はそれをさらに超えて、荒川修作の宿命反転を体現する存在につながっていく。なによりもまず、これからの人工知能に必要なのは、機械学習ではなくこの「機械忘却」なのだ。

教授・久保田 晃弘