認知症の女性のための化粧品

和嶋 玲美

作者によるコメント

認知症の女性に笑顔とその人らしさを取り戻してもらいたいという思いで取り組んできました。この提案の目的は、施設で生活する認知症女性が自分で行う化粧をサポートする事です。これは一見既存の化粧品と違いが無いように見えますが、その化粧品らしさが、物の認識が難しくなってしまう認知症の方が化粧品(顔につける事)を認識できる重要な要素になります。彼女たちが化粧をしていた当時の化粧品の要素(スタイル)を取り入れる事で、当時の流行であったスタイルが使用方法を想起させるという機能を持ちます。

担当教員によるコメント

認知症の方の残された認知機能をできるだけ保ち、進行を遅らせるための療法があるという。その一つが「回想法」だ。この提案は、回想法の中に女性の日常の行為である化粧を取り入れる試みである。認知症の女性達に協力してもらい、テストを重ね、最終的に彼女たちが若い頃のスタイルを取り入れたデザインになったのは、その外観が化粧品であるという認知につながったからだ。流行のスタイルが、長い年月を経て回想を促す機能を果たすのである。指先を使い自然に化粧品を扱い、鏡をみて化粧をする行為を通してかつてのその人が戻ってくる。同じデザインのプロダクトが、一人一人の人生の鮮やかな記憶を呼び起こす。本人も家族も穏やかな笑顔を取り戻す瞬間だ。

教授・大橋 由三子