卒業制作優秀作品集2018
芸術学科

論文イメージ

河合 悦子

ゴヤの「黒い絵」―病跡学的解釈

本論文ではゴヤの「黒い絵」を取り上げ、多角的な視点から、狂気的な表現が生まれた理由や意味について考える。まずゴヤの生涯を6つの期間に分け、作品を比較しつつ作風の変化を見る。次にゴヤの病気について、記録に基づき病名や原因などの検証を行う。それまでのことを踏まえて「黒い絵」を解釈する。最後に「黒い絵」を心理学的アプローチで解釈する。創作が精神に影響を及ぼす場合と、精神病的状態が創作に影響を及ぼす場合の二点から考察する。

担当教員によるコメント

風刺画としての王侯肖像画、明るいタぺストリーの下絵、相思関係を推察できる貴婦人の肖像や裸婦像、戦争画、気まぐれ(カプリチョス)の連作まで、スペインの巨匠ゴヤの絵画作品の「全貌」を捉えることは専門家でも至難の技である。しかし本論文はその難を乗り越えて、まずゴヤの生涯にわたる作品と人生をよく整理区分し、その上で最も謎とされる「黒い絵」の連作の主題を先行研究に照らし読み説くことに挑んだ。従来議論されてきたゴヤの身心の病の跡が、いかに陰惨にではなく、人間存在の「思惟の極地」を表出したかを、慎重かつ自己の思考のオリジナリティを込めて、「病跡学」的解釈に到達している。美術史と病跡学を横断した優れた客観的方法論は、本邦における「ゴヤ研究」に寄与する萌芽を深く示し高く評価できる。

教授・鶴岡 真弓

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