わたしを見ないで

坂口 歌鈴

作者によるコメント

わたしが中学生の時訪れた保健所で出会った犬は、ただじっとわたしを見つめていました。彼はその翌日、殺される予定の犬でした。大きな社会問題でありながら、普段あまり意識することのない殺処分問題について再認識させることを目的として制作したノンフィクションの絵本です。殺処分される動物達の数は年々減少していますが、未だ0ではありません。わたしたちが動物を飼うとき、考えなければならないことはなんでしょうか。

担当教員によるコメント

実家が動物病院という環境で育ったことで、作者と動物との関係は、幼い頃から特別に近しいものだった。とりわけ今なお継続している愛玩動物の殺処分の問題(2016年度に全国で殺処分された犬・猫の数は約5万6000頭にものぼる)は、人間が動物を飼うことの背景にある倫理や、生命そのものの意味や価値を問うものとして、作者の心に深い記憶を残した。この、最終的には絵本という形態となった卒業制作は、動物の殺処分に関するリサーチと、この作者の実体験が交錯したところから生まれた。大胆な色面構成による一見ポップなイラストレーションと、絵本後半の(作者自身の撮影による)実際の殺処分施設の写真との対比が深い思索を導く。一人でも多くの人に、広く読んでもらいたい作品である。

教授・久保田 晃弘