百人一首

榛葉 眞利子

作者によるコメント

私たちは今、キーボードで文字を打ち込み、正方形のなかに収められた文字を使用する。しかし昔は筆を使って、より自由な形で書かれた。印刷にも木版が用いられ、本を作るのにも大変な手間がかかった。いろいろなことが合理化され、簡単にできるようになった現代で、無駄に巨大な本と幾何形態の自由な形の文字によって日本語の綺麗さを表現した。

担当教員によるコメント

文字はグラフィックデザインにおける血液であり、タイポグラフィーは骨格といえよう。このことを芯に据え、テクノロジーツールを現代の筆とみたて使いこなし、藤原定家選「小倉百人一首」を独自のカリギュラフィーで再生した見事な作品である。日本語(文字)を大切な表現パートナーとして機能を超えた直感とユーモアにまで昇華させた執念は圧巻だ。
基礎課程時から見せてくれた榛葉の卓越した描写力は何事にも真摯に挑める才の証明であった。また、多くの読書を日常とする知への探究心からは自身を更なる高みに導こうとする欲を感じた。優秀などという安易な言葉ではくくることの出来ない、榛葉は格別に強靭な人間なのだ。きっと社会でも静かに何かをやらかしてくれることだろう。

教授・澤田 泰廣