はじまりのタネ

齊藤 可南子

作者によるコメント

作品のコンセプトは、植物を育てるきっかけとなるコンテンツのデザインです。植物を育てるという行為は人に安らぎや癒しの効果をもたらします。日常から離れて無心になれる時間をとったり、手間をかけて世話をすることで慈しみの心を育むこともできます。この作品では、都会に住んでいる慌ただしい日々を送る人たちに、植物の世話をして穏やかに暮らす人を紹介します。街を歩いていて、気になったお庭のご主人にインタビューを行い、野菜や樹木を育て始めたきっかけ、庭のお気に入りの紹介、植物を通してできた人との繋がりなどをフリーペーパーとしてまとめました。庭ひとつひとつの物語があり、庭を作る人の人柄が感じとれます。さらにインタビューに登場する植物を、読者が実際に育てるための野菜や樹木のタネを同封し、植物を育て始めるきっかけづくりとなることを目的に製作しました。取材では、庭についてのインタビューをしましたが、庭の魅力を語ったエピソードから庭主のお人柄が感じ取ることができ、植物を育てることの魅力に加えて、テーマのひとつであった「人の魅力を伝える」という方面からも表現できたと思います。

担当教員によるコメント

都市の緑をテーマに、それを育む人のインタビュー記事と写真によるストーリテリングサイトとフリーペーパを想定した小冊子の作品。作者は、制作ために街の中を歩き、自転車で走って庭を探しましたが、インタビューを依頼しても断られてばかりでした。けれども、あきらめずに取材先を見つけたのがこの作品です。それは、植物に愛情を注ぐ人たちの優しい姿を垣間見せてくれる仕上がりで、小冊子の巻末に封入された種子は、読み手の庭に根を下ろし、花を咲かせて実が成り、種子を残すのだろうという期待を抱かせます。実際には種子が撒かれなくとも、読み手の心に期待という小さな種子をおろし、やがて穏やかな緑が都市の暮らしの中に広がっていくと感じられる優れた作品です。

准教授・矢野 英樹