石合 朝周

担当教員によるコメント

『昔』と題する作品の前に、「光景」をテーマとする作品を作っている。それはテラステーブルの上にテーブルクロスが掛けられ、ティーカップが置かれている。全体を同じ材料の薄い鉄板を叩いて作っている。決して何処かに焦点が有り、中心と成るべき所がある訳ではない。しかも技術的にも造形的にも、決して上手いとは言い難い。言ってしまえば、鉄は不様に叩かれただ凸凹としているだけに見える。しかし作られたもの自体にではなく、そのものを介して石合君の持っている魅力が、光や風や時を見せてくれる。やさしい風が吹き光に溢れ、ゆっくりと時が流れる。子供の時の良い思い出を作った『昔』と題される作品でも同じである。時はゆっくり流れ、光や風はやさしい。ぼーっと見てしまう。そうしているうちに、私達は玉手箱の煙を浴びせられ、膝や腰に痛みを抱える体だけ残されることに成るかも。

教授・多和 圭三