萬鐵五郎の南画, 「内的必然性」から読み解く心的風景の表出

若林 花南

作者によるコメント

大正期の洋画家・萬鐡五郎(よろず・てつごろう、1885–1927)は、晩年に南画制作に没頭した。彼が書き残した南画の数は、油彩画のそれをはるかに凌ぐ。また、優れた「書き手」でもあったこの芸術家は、南画について多くの画論を書き遺している。42歳という若さで早逝した萬は、南画を以って何を目指していたのか。彼がしばしば引用したカンディンスキーの「内的必然性」を手掛かりに、萬の南画の中に「革新」や「反」といった彼独自の精神性を見出した。

担当教員によるコメント

萬鐡五郎は大正期に活躍した洋画家である。フォービスムやキュビスムをいち早く取り入れ、日本における前衛絵画の祖とも称される。若林さんの論文は、その萬の晩年の活動である南画制作に焦点を当てた意欲作である。萬の南画は、彼の油彩画と比べると、これまであまり評価がなされてこなかった。若林さんは、ドイツ表現主義の画家カンディンスキーの有名な「内的必然性」という言葉に萬が言及していることに注目しつつ萬の画論や作品の分析を行うことで、萬にとって南画制作は自己の精神性を表出する場であったという一つの結論を導き出した。また、萬の仕事全体の再評価としても優れた論考となった。

准教授・大島 徹也