n個の少年という欲望, 稲垣足穂と長野まゆみとのあいだに

PERNG Shin-Wen

作者によるコメント

本論考は、小児性愛の欲望を研究することを意識し、そのひとつのアプローチとして文学世界に現れた小児性愛の一部の形態である「少年愛」を考察する文学表現の研究である。本論考の目的は、日本語圏での文学表現における稲垣足穂と長野まゆみが示した「少年」に限定し、それら差異を見出した上で、文学表現の「少年」をひとつの哲学問題―存在論レベルの問題―として、ひとつの新しい身体、欲望の可能性を提案していくことである。

担当教員によるコメント

PERNG Shin-Wenさんの卒業論文『n個の少年という欲望 ―稲垣足穂と長野まゆみのあいだに―』は、「少年愛」を主題とした文学を書き続けた稲垣足穂と、その作品世界からの大きな影響を受けながらも、ホモソーシャルな閉域を乗り越え、「少年愛」の文学を新たな領域、新たな関係性にまでひらいていった長野まゆみという2人の作家の同一性と差異性を対比的に論じたものである。それぞれの作家論および作品論としても優れたものであるが、それにとどまらず、現在では法制度として禁止の対象である「少年愛」にいかなる文学的な可能性、哲学的な可能性があるのかまで論じようとしたきわめて意欲的な論考である。母語ではない言葉を用いて、通常の卒業論文のレベルをはるかに超えた達成を成し遂げたことを讃えたい。

教授・安藤 礼二