透明人間

中村 知愛

作者によるコメント

友達に嫌われたらどうしよう。教室の中で弾かれることは死ぬことよりも怖いことだった。だからつまらなくたって一生懸命笑っていた。嫌われることがなくても、愛されることはなく記憶に残らない存在だった。透明な存在になってしまう人の心に、私の絵と言葉たちが、じっくりと沁み渡ってくれたらいいなと思う。

担当教員によるコメント

執拗な描画によるリアリズムの追求価値が軽く見られる時代になってしまった。この領域を極めるためには、自己と向き合い、試行錯誤を繰り返し、一枚一枚の制作に圧倒的な時間を費やさなくてはならない。時代の潮流である便利さや効率的なものに反旗を揚げる必要性も生じる。しかし、中村知愛はあえてこの近道無き“描く”という行為にこだわり、素晴らしい成果を成し遂げた。創造の世界は厳しい。やり抜いた人だけが生き残れるシビアな世界である。クリエイターとして一番大切な力量とは、常にありったけのエネルギーを出し切れる才能ではないだろうか。この卒業制作で彼女はそのことの大切さを見事に証明したのだ。思春期を迎える現代の若者達の揺れ動く微細で危険な心中を主題にした、気迫溢れる秀逸な作品となった。

教授・澤田 泰廣