他人のあなた

作者によるコメント

私たちは日常の多くを他人と共有します。他人とは関わりを持たないため風景に溶け込み、あまり気にかけることはありません。気にかけることがあっても否定的な面での気づきからによることが多いように感じます。他人が気になるきっかけになりやすい「くせ」をその人の特徴のひとつ、その人らしさと捉えることで、風景の一部となっていた関わりを持たない他人も自分と同じように生活する一人の人間であるという意識を作り出せたらと思い制作しました。

担当教員によるコメント

この作品に通底しているのは、他者へのやさしい眼差しである。作者の島津琴実は、集合体として見える人々は景色ではなく、一人一人生きていて物語を持っているということを伝えたかった。そこで、ふつうネガティブにとらえられる「くせ」に着目し、その動きを線で描いた。この線の動きの質の高さこそがこの作品の最大の特徴である。その人らしさを愛おしさとして伝えるためには、何を抽出しどこまで単純化するか。試行錯誤は続いた。最終的に完成した作品は、見事にそれを実現している。しかし観る者はその苦労の後にまったく気づかないだろう。自然な空間の中の心地よい動きを観て「他人のあなた」への思いを馳せるに違いない。それこそが島津が本当の伝えたかったことである。

教授・宮崎 光弘