創生の泉

成瀬 拓己

担当教員によるコメント

神話や伝説を描くことは、絵画の大きな仕事だった。それら物語を共有する場にこそ、絵画が存在してきた。物語に取り囲まれて、自分とその世界が地続きになること。だが、壁や天井の向こう側にあった絵画空間は今どこにあるのだろうか。成瀬は木目の模様を残す板に、独自の解釈で神話の神々を描き続けてきたが、彼はとうとうその板を具体的な密室へと立ち上げた。イザナギとイザナミが鉾で海原をかき回す壁画。そこに、混沌と秩序の象徴のような、あるいは海に浮かぶ島国のような便器を置いた。左右の壁にも、また床下にも彼は緻密に物語を組み込み緊張感ある密室を作っている。彼は現代の日本に画家として出発する覚悟を、この混沌の密室に求めたのだ。

教授・石田 尚志