蝉3

佐橋 政輝

担当教員によるコメント

佐橋政輝さんは、墨を使った日本の伝統木版画の技法を用いて、日常の中でよく目にする昆虫をテーマに制作を続けている。卒業制作では、昆虫の細部にわたる構造をより丁寧に表現したいという思いから、昆虫をマクロ化して描くという手段を用いた。そこに普段は見えない形態や足や羽など微細な部分を克明に再現させ、またその質感まで表現しようとした。さらにガザガザとした彫刻刀による彫り跡を生かし、生命体のもつ多様な魅力を伝えようとしている。実際には小さい昆虫と巨大な画面とのサイズ感のズレは、観る者に奇妙な感覚を覚えさせる。作者は、よく見慣れたもののサイズを変化させることで非現実性を生みだし、それまでとは違う存在、異なる意味をもって鑑賞者の目前に登場させる。そして、そこに描かれている昆虫は、見覚えのない不思議なものへと変貌している。


教授・古谷 博子