ふれる

長岩 実穂

担当教員によるコメント

「分身」、というよりも作者はこの物体を『一番近くに居る他者』と表していた。鉄の塊を一度溶断で粉々にした後に、鉄粉と呼ぶ方が近い鉄クズを溶接でつなぎ合わせながらパーツを作り出し、そのパーツを組み立てては、また解体し鉄クズを作る。幾度もの解体と構築を繰り返しながら作られたその鉄の塊は、気がつけば人の気配を纏った空洞を内包する棺桶の様相になった。不器用にもほどがあると言えるくらい、手探りで鉄クズを固める。空気を含んだ鉄クズは炎で溶かされ、トロリと凝結する。作者は鉄屑の中に気配を見ていた。人の気配。この「一番近くに居る他者」の出現で、次に作者は『アイツ』が何処に存在するべきかに悩んだという。結果、『アイツ』は作者が日頃利用する雑多な更衣室に設置された。(立たされたと言っていいかもしれない。)その部屋は作者の『日常』の象徴であるらしい。作者は、本当はこの「他者」を自宅のキッチンや居間のソファー、駅の改札口、日常の風景の中に溶け込ませたいと考えている様である。鉄の彫刻である。重い。本当に重い鉄の塊なのだ。それを多分テディベアか何かの様に扱いたいらしい。溶断、溶接を幾度と繰り返しながら再構築されたこの、空気を含んだ鉄の塊を、彫刻然とする事なく、日常に潜ませる事によって、作者の持つリアリティーが翻って、可笑しさと末恐ろしさを感じさせる『アイツ』になるのかもしれない。さらなる方法の模索を願う。

講師・中谷 ミチコ