時間尺

吉村 友

作者によるコメント

何気なく繰り返される毎日の中で、確実に刻まれる時を、キズを受け止める建築をめざす。

JR八高線 拝島ー小宮 駅間、多摩川中流を横切る。

通勤通学で溢れかえる電車の中、約400mを20秒間で渡り切る。
その毎日の20秒の中に長い年月を、自然の強さと共に感じる尺として存在する。
用途は美術館。人の痕跡として残るキズと自然の風化によるキズに焦点を当てて設計に取り組んだ。
敷地は不定形な川。自然災害の脅威と共にある日本で水との暮らしを守る水堰の上を拠り所として敷地に選んだ。
線材の脆い仮囲い、白く塗られた木の壁、塗り重ねられる漆喰によって肥大化する柱。
美術館の閉じられた内部では、人が残す痕跡が蓄積されていく。
風化と痕跡は時間の記憶となり、人々の拠り所となる。

担当教員によるコメント

一言でいえばスロースターター。おまけに、完成を見通さない深謀遠慮のタイプ。
ハラハラすること、この上無し!しかし本人は至ってマイペース。ただ時間を費やしているわけではない。
吉村にとっては、何かのひっかかり、何かの気付きの欠片が脳内に散らばっているのだ。
その欠片をポツリポツリと語り、こちらはそれを一生懸命繋げようと試みた数ヶ月だった。
自らを掘り下げようとする行為を高く評価したい反面、老婆心ながら、完成(吉村にとっては、意味の無い言葉かもしれないが)を目指す姿勢を求めたい。
卒業後のことは、聞いていない。ただ大学院を目指していたこともあったようだ。建築系、特に吉村のようなタイプはあと2年の大学院での学びを強く進めたい。

教授・松澤 穣