記憶を解凍する公園エントランス

髙田 新

作者によるコメント

横浜市南部に存在する戦争遺跡を公園へのエントランスとして提案し、周辺環境とあわせてデザインした。敷地の野島公園には、野島山と呼ばれる自然地形と、それを貫通する形でトンネル状に掘られた全長約260mにもなる現存する日本最大の掩体壕が存在する。この掩体壕は建設途中で終戦を迎え、現在はフェンスで覆われて中には入れない。この戦争遺跡と周辺環境を、空間を体感できる場として新たにデザインした。掩体壕内とそれぞれの出入り口で新たに生まれた賑わいと美しい景観は、今まで塞がれて止まっていた歴史と時間をもつ掩体壕内に息を吹き込む。未来へ向けて、土地のもつ記憶が、ランドスケープデザインによって解凍される。

担当教員によるコメント

対象地は、横浜市の最南部にある平潟湾入口に浮かぶ野島公園内、海抜57mの野島山の地中をくりぬく形で建造された長さ260m、幅20m、高さ8mのトンネル状の掩体壕(えんたいごう:太平洋戦争末期に軍用機を上空の敵機から守るために造られた格納庫)である。本作品では、戦争遺構という場のもつ記憶の大きさに対して記念碑(メモリアル)的デザインで消化するのではなく、公園エントランスという何気ない市民の日常利用に溶け込ませる風景デザインにより「場の記憶」との新たな関係性を見つけ出そうとしている。また、長さ260mのトンネルを「歩く」という行為自体をランドスケープデザインの一つの要素として提案しており、この場の空気感を身体感覚と結びつける何気ない仕掛けにも共感する。

非常勤講師・田嶋 豊