新釈ひらがな

道川 雄介

作者によるコメント

文字とは美しく、不思議なものです。とりわけ、ひらがなの曲線は豊かな情感を持っています。ある時、私はそこへ視覚的な奥行きを感じました。そして、その経験を文字の形の解釈法の一つだと捉えることにしました。それに従って再構成した単純な線としてのひらがなを、その空間ごと物体にしてみました。

担当教員によるコメント

道川雄介さんは、これまで見てきたなかでもっとも持続して悩みつづけるタイプの学生でした。そのためなかなか作品が完成しないのですが、そのことにやきもきしつつも、悩みの深さとピュアさからくる対話のおもしろさによって、待つことが苦になりませんでした。この卒業制作作品の謎めいた姿が、そうした道川さんの姿と重なって感じられます。形象を通じて意味を伝える文字は、そもそも謎めいた存在です。透明レジンにおさめられた針金製の文字は、正面から見れば素直に判読できますが、視線をずらすと形を変えていき、しまいには美しいかたちしか見えなくなります。謎を謎のままに、美しい存在として見事に提示しています。道川さんが、学生時代のうちにすばらしい作品をつくりあげてくれたことを心からうれしく思っています。

准教授・佐賀 一郎