…の物語

荒木 晴香

作者によるコメント

広島市平和記念資料館から消えた三体の「被爆再現人形」についての作品。資料館は展示リニューアルに伴い「実物資料」を重要とする方針のもと、人形を撤去した。
二度と恐ろしいことが起こらないためにはその体験を語り継ぐ必要があるが、時が経つにつれズレは必ず生じ話の輪郭は段々とぼやけていく。誰かの経験した恐怖を正しく、遠くまで伝えることはとても困難なことだ。
それでも語り想像し続ける義務はある。その想像の一助として人形は役割を果たしていたように私は考えている。
四体の人形のうち三体は被爆再現人形をモデルにして制作した。土で厚く覆われた人形の中には顔があり、目は瞬きを繰り返している。それによって原爆で亡くなられた方の写真を見た時に感じた私自身の気まずさを表した。

担当教員によるコメント

4体の立体作品と映像作品によって構成された荒木さんの卒制「・・・の物語」。この作品が設置されている空間に足を踏み入れたとき、まず何よりそれぞれの作品が発する圧倒的な存在感に心深く奪われた。立体作品3体は2017年広島原爆資料館リニューアルの際、撤去された被爆再現人形を模し、「語れない、語りづらいことを記録して語り続けなければいけないこと、そこに付き纏う残酷さについて考えながら今回の作品を制作した。」と語る荒木さんだが、まさにこの作品群は見る者に、時代や場を越えてなお人々が考え続けなくてはいけないこと、語り続けなくてはいけないこと、この普遍的な問いをあらためて気づかせ、向き合わせる力を内包している。そしてこの力は荒木さんの誠実な作品への向き合い、積み重ねがあってこそ生まれたものであることは間違いない。

教授・日高 理恵子

  • 作品名
    …の物語
  • 作家名
    荒木 晴香
  • 作品情報
    素材・技法:土、樹脂、木材、映像
    サイズ:H120〜170×W35〜57×D30〜55cm
  • 学科・専攻・コース