あるけどない・ないけどある, あるけどない・ないけどある

高倉 七海

作者によるコメント

私自身が暴力の中に晒される経験を体験したことがある。
その時痛みに包まれて自分というものはその瞬間無くなるように感じた。
でもその痛みを俯瞰して見ている自分がいたようにも思う。
「私」や「自己」というものはあると同時にない、ないと同時にあるということが起こった。
ふと、自分が昆虫採集している虫の事を思い出した。
自分も暴力を振るっているんだなと、鏡の中から自分を見ている感覚になった。
虫(最近特に採集している蝶)を通して、起きたことを絵画という、物理的なフィルターを利用する事で客観的に認識し描けるように試みた作品だ。

担当教員によるコメント

髙倉さんの卒制にあたる二点の絵画作品。どちらも白を基調に描かれ、決して声高に表現されている作品ではないが、そこに刻みこまれるように描かれ、存在しているものたちを見つけるとき、見る者はドキリと、この一つひとつの存在に惹きつけられ、圧倒されていく。小さき一つひとつの存在がこの絵画空間でぎりぎり存在し続けようとする状態、この中から生まれる緊張感と拡がり、これらは同時にまだ見ぬ絵画そのものへの挑戦でもある。まさに髙倉さん自身のリアリティと表現が重なり、表現者として大きな一歩を踏み出した瞬間である。そしてこれは言うまでもなく、髙倉さんが制作をめぐる様々な状況、迷いの中にあっても、そこから逃げることなく、留まり続けたからこそ生まれたものであり、この純粋な営みこそが他者に開かれていくことをあらためて強く感じ、感動する。

教授・日高 理恵子

  • 作品名
    あるけどない・ないけどある, あるけどない・ないけどある
  • 作家名
    高倉 七海
  • 作品情報
    『あるけどない・ないけどある』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:H162×W130cm

    『あるけどない・ないけどある』
    素材・技法:キャンバス、油彩
    サイズ:H194×W259cm
  • 学科・専攻・コース