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加藤 昌美

作者によるコメント

「見られる姿」というテーマのもと制作を行っています。「見られる姿」とは、目の前に見える風景のある一瞬を自分が「ここだ」と感じたシルエットで切り抜き、線描によって描き起こされるイメージの有り様です。動きの散らばりが大きく見える時、動きの変化が大きく見える時にシルエットを切り抜き、また、目に見えている物が動く時のブレ、動き終わったあとに残る像、痕跡も「見られる姿」として描きます。

担当教員によるコメント

加藤は新聞や雑誌の写真を線でなぞり、コンピュータでデジタル画像化する。画像はレーザーカッターによって黒いアクリル板に切り出されるため、或る意味、データを版とする立体の版画作品と言えるだろう。彼女のモチーフ選択は自身の体験や記憶に直接的、間接的な関わりがあると想像できるが、作品は、或る記憶から出発しながらも、線に置き換えられ、極端に単純化されることで、その記憶から離れ、別の複数の記憶が交錯する場となっていく。さらにイリュージョニスティックなイメージを実際の壁に立体物として提示することにより、こうした場を虚構と現実の間に置こうとするのである。虚構と現実の間で揺らぐ複数の記憶が交錯する場、それこそが彼女の作品の主題となっていくのではないか。そこに今日のドローイング表現の新しい可能性を見るのである。

教授・大島 成己