ねずみにひかれる

古園 沙絵

作者によるコメント

私はうつ病になった。うつ病は独りになったときに突然やってきて、気がつくとずっと落ち込んで、生きていることが苦しくなった。そんな時心の救いは飼っているネズミたちだった。身体が小さく寿命が短いながら、強く生きている。その姿を見て惹かれ、少しずつ生きたいと思えるようになった。身体の傷や病気から守るのが私たちにとっての細胞なら、私の心の苦しみから守る細胞のような存在はネズミたち。ネズミたちは心を守ってくれる私の細胞のようと思った。

担当教員によるコメント

沖縄県の伝統染織技法のひとつである紅型技法を使って、まるで絵巻物のように、横長の小幅生地に染色された力作である。彼女は伝統的な染技法による制限と、自分とを真摯に受け止め試行錯誤を続けてきた。自身がうつ病と向き合っていくなかで、まるで己の病を治癒する細胞かのように感じてきたペットのネズミたちをテーマとした作品だが、そのコミカルな描写力、軽快な表現力から彼女の豊かな感性を感じる。また流れるような美しい線の選び方と、粗密のバランスにはいつも驚かされる。ネズミたちを形成する線からは、単調にならない生き生きとした表情が生み出され、観る側が様々な物語を読みとることができる多義的な作品となった。

講師・山田 菜々子