認識の過程

鹿野 里美

作者によるコメント

2019年オスロ国立芸術大学との国際協同教育プロジェクト「Connecting Wool」に選抜され、2ヶ月間ノルウェーに留学した。繊維製品の廃棄をテーマに制作を行い、日常で様々な問題を看過していたことに気がついた。世の中には多彩な繊維製品が溢れるほどに製造され、身勝手に廃棄が行われている。その製品を何かの形で作品に昇華できないかと考えた。古着やボロ布などを再利用し、ウールと組み合わせることによって新しい表現方法に辿り着いた。作品の中に潜ませた布の断片が、「繊維製品の過剰生産や廃棄の現実」を問いかける。

担当教員によるコメント

矩形や楕円の重なりに近づくと、繊細な色彩と丹念に作り込んだ表情が見える。古着やぼろ、それらを繊維に戻し羊毛と混ぜ、縮絨やニードル加工を施し繋ぎ合わせている。縫いやパッチワークは加飾であり布を再生する繕いでもある。コップや皿のかたちを参照したのは、なにげない日常の美しさと尊さを見出したからだろう。この制作の背景には、オスロ国立芸術大学との国際協同教育プロジェクト「Connecting Wool」がある。鹿野さんは、オスロでの留学生活から確実に視野を広げ思考を深めた。繊維製品の過剰生産や廃棄の問題に向き合い、今自分に何ができるか考え真摯に取り組んだ。ドローイングや実験を妥協することなく繰り返し、自己の美意識と社会的な問題意識を重ね合わせた意欲作である。

教授・川井 由夏